(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

神経科学 運動学習 指導関連 考え方

#9 トレーニングを続ける動機について

2017/09/17

自宅でのエクササイズや、外でのウォーキング、フィットネスクラブでのトレーニングなど、運動に取り組む人は少なくないと思います。動機は様々で、健康増進、ボディメイク、ストレス解消、趣味そのものなど、色々あると思います。

フィットネスクラブに通う人で、何年も続く人もいれば、しばらくすると通わなくなり退会する人もいます。これも理由は様々あると思います。少なくとも、続けている人は、何らかの動機があるはずです。

健康増進という言葉は抽象的過ぎますが、例えば、健康診断のデータが改善する、日常生活において身体を動かすことが楽になる、夜ぐっすり寝られるようになる、お腹が減ってご飯が美味しい、トレーニングを行うこと自体に充実感を得る、そういったことも含まれると思います。

最初から明確な目的がある人もいれば、何となく運動は良さそうというイメージの人もいます。ですから、「運動によって、こういう効果も期待出来ます」といくつか提示することも、最初の動機づけとして有効なこともあると思います。

反対に、特に変化がない、疲れるだけ、面白くないといった場合には、トレーニングを続ける理由が見当たらなくなるかも知れません。そうなると、トレーニングを止める、クラブを退会しても仕方ないですね。

報酬は動物(人間を含む)の行動を導く動因です(参考記事:#78 「報酬」と「運動学習」について)。何も得るものがないのに、自ら進んで行動することはそうないと思います。トレーニングで言えば、トレーニングによって得られる何かが重要になります。

トレーニング自体が楽しい、面白いと感じる人はいるでしょうけど、トレーニング自体というよりも、トレーニングによって得られる何かが報酬となることが多いと思います。

例えば、体力が向上すると、日常生活が楽になったり、余暇スポーツをより楽しめたり、生理的老化を実感しにくくなるといったことです。また、筋力といった体力要素が向上すること自体が、報酬となることもあると思います。

ひとつ例を挙げてみます。レジスタンストレーニングを行うことで、筋力は向上し、筋は肥大し体型が変わっていくとします。やれば変化するという成功体験を得ることで、今行っていることが未来に繋がるという思考になり、そうなると続けられる可能性は高くなるかも知れません。

つまり小さくても成功体験を得ることは大事だと言えます。何週間、何ヵ月と変化を感じない人が、果たしてその取り組みが未来に繋がると考えられるかと言えば、難しいかも知れません。

継続性の原則の下、「続けないと結果は出ません」と言っても、数週間、数ヵ月間、何の変化も実感しなければ、これから変化が出るとは考えにくい可能性もあります。方法に問題があるなら修正する必要がありますし、実際の変化に気づいていないのであれば、気づいてもらうような介入が必要かも知れません。

小さくても変化を実感する、小さな成功体験をすることで、未来にさらなる変化や成功があると想像しやすいと考えられます。反対に例えば数ヵ月間ベンチプレスの記録が50kgでストップしている人が、1年後に100kgを挙げることは想像し辛いと思います。

筋力の向上や体型の変化を他人から褒められることも報酬になり得ます。人から褒められることによる報酬効果です(Izuma et al, 2008;Sunagawa et al, 2012)。クラブのスタッフや知り合いなどに褒められることが当てはまります。

試行錯誤しながら取り組むこと自体が報酬になることもあると思います。サルが対象ですが、特に他の報酬が得られないにも関わらず、パズルを解くのに夢中になるといった実験もあります(Harlow HF, 1950)。

それが何の役に立つのかということだけでなく、それ自体を行うことが報酬となり得ると考えることも出来るかも知れません。やること全てにそれらしい理由を無理矢理探そうとすれば、冷めてしまうこともあるかも知れませんね。

面白いものは面白い、楽しいものは楽しいという、そういった部分は大事だと個人的には考えています。余暇スポーツやゲームも健康に良いとか、脳の活性化とかそんなことをいちいち考えてなくて、面白い、楽しいからやってるという人も多いのではないでしょうか。それらしい理由は後付けだったりします。

徐々に実力がついてきて、パワーリフティングやウェイトリフティング、ボディビルなどの大会を目指すようになると、競争の世界になります。この競争もまた報酬になり得ます(Hosokawa et al, 2012)。

ヒトの行動は複雑なので、今回はあくまで簡略化した強引な例ですが、このようにいくつかの報酬を挙げて考えてみると、指導者側、クラブ側として考慮すべきこと、工夫出来ることがいくつか見えてくるかも知れません。

これら報酬の話以外でも、例えば運動によるセロトニンの効果(Omatsu et al, 2014)など、関係する要因は多々あると思いますが、今回は報酬に関することで話を進めました(セロトニンによる活気の向上や不安の軽減といったことも、報酬に含めることも出来るかも知れません)。

【参考文献】

・Izuma K et al:Processing of social and monetary rewards in the human striatum.Neuron 58:284-294,2008

・Sunagawa SK et al:Social rewards enhance offline improvements in motor skill.PLoS One 7:e48174,2012

・Harlow HF:Learning and satiation of response in intrinsically motivated complex puzzle performance by monkeys.J Comp Physiol Phychol 43:289-294,1950.

・Hosokawa T et al:Prefrontal neurons represent winning and losing during competitive video shooting games between monkeys.Journal Neurosci 32:7662-7671,2012.

・Omatsu S et al:Activation of the serotonergic system by pedaling exercise changes anterior cingulate cortex activity and improves negative emotion.Behav Brain Res. 270:112-117,2014.

報酬に関してまとまった内容になっています。

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