(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

トレーニング 考え方

#87 レジスタンストレーニングより武道をするべき?

2018/01/09

高岡英夫氏と筋力トレーニング

高岡英夫氏の著書「鍛錬の方法」より

さて、くどいようであるが、あくまでも筋力トレーニングを否定される方に、申し上げておこう。

筋力トレーニングは、生理-生化学的現象として、筋力→パワーを強化する。これは、認識の問題に余りかかわることのない、いわば自然科学的現象である。

しかし、強化されたパワーが、選手の全体としてのパフォーマンスを高めるか否かということは、端的に言えば、筋力トレーニングをいかなる”認識”のもとに行うかに掛かる、極めてデリケートな、人文科学的現象なのである。

種目が、個人に複雑な運動構造を要求し、選手が、繊細でダイナミックな技術を必要とすることになればなるほど、相対的に筋力トレーニングが、選手の全体としてのパフォーマンスの向上に対し”安定的なプラス効果”を失っていくことは、確実である。

筋力トレーニングを始めたがために、洗練された”技”の向上を失い、”ゴリラ男”に堕した空手家や合気道家を、筆者も知っている。

しかし、筋力トレーニングと<ラフ/レフ>の関係は、今も述べたように”認識”という因子により規定される、あくまでも相対的なものなのである。

筋力トレーニングを行って堕落した空手家は、要するに、認識の能力が低かった……ただ、それだけのことなのである。

それを筋力トレーニングのせいにするのは、事の過半において、間違ったことなのである。

高岡英夫:鍛錬の方法. 恵雅出版. 95-96, 1998.

※こちらはKindle版です

高岡英夫氏といえば武道(武術)、ディレクトシステム(DS)、ゆる体操など、色々な連想があると思います。そういった連想から、筋力トレーニングを否定しているようなイメージを持っている人もいるかも知れません。

しかし、引用した部分を読んでみると、また違ったイメージを持つかも知れません。理解出来ないことも多くありますが、参考になることも多かったので、一時は様々な本を読んだりセミナーに参加したこともあります。

初版は1989年ですが、今読んでも今と同じような問題と言いますか、話題に触れられています。ちなみに、個人的にはいわゆる研究論文などと同じように、他者の考え方や視点に興味があるので、自覚がない部分においても、色々な人達の考え方や視点を参考にしていると思います。

武道をすれば何のパフォーマンスが向上するのか?

武道がアスリートのパフォーマンスアップに繋がる?

一時期、スポーツにおいても、武道(武術)の練習を取り入れることで、身体操作の能力が向上し、パフォーマンスが向上するといった話題を見かけることがありました。実際に効果を実感した人もいれば、そうでない人もいたと思います。

これは武道(武術)の練習に限った話ではないですが、その練習に時間と労力を費やすだけの価値がどれだけあるのか、そういった部分が求められます。

アスリートだとすれば、自身の記録や成績に関わることですし、プロであれば生活がかかっているわけですから、期待出来る具体的な効果を知ること、その効果を実感することは重要なポイントになると思います。

これは、武道(武術)の練習に効果があるかないかという話ではありませんし、武道(武術)に限った話ではありません。提供する側として考えると、それなりの根拠が必要になるということです。

武道をしたら武道は上達する

何か新しい取り組みをする際に、その取り組み自体のスキルが向上することによって、「効果がある」と錯覚することがあるように思いますが、それは、「その練習をしたから、それが上手くなった」ということであり、本来の目的であるスポーツのパフォーマンスの向上に繋がるかは別の話になります。

ストレッチをしたから柔軟性が向上した、レジスタンストレーニングをしたから筋力やパワーが向上したということも、同じような話だと言えます。

時間は有限

また、「その練習が上手く出来るようになること」に時間と労力を費やしたとしても、本来の目的であるスポーツのパフォーマンスの向上に繋がらないとすれば、その時間と労力はスポーツの練習や休養など、他に充てた方が良かったのかも知れません。

「筋力 VS 身体操作」?

「筋力」と「身体操作」は相反するものではない

この話題は以前の記事(#45 「筋力だけではダメ」という話)でも触れましたので、ある程度割愛しますが、そもそも「筋力」と「身体操作」は相反するものではないにも関わらず、そういった対立を作ることがあります。

しかし、一定の筋力がなければ出来ない身体操作もあります。「筋力がゼロでも身体操作が大事」という話を成立させるのは難しいですから、完全に別々に分けられるものではないと言えます。

レジスタンストレーニングも身体操作

また、効率的な筋力向上を図る手段として、レジスタンストレーニングがありますが、それぞれのレジスタンストレーニングにおいて、いわゆるテクニックの要素、言い換えると身体操作の要素が含まれています。

「筋力より身体操作だ」という主張は、「一定以上の筋力を必要としないケース」を想定しているわけで、極端に言えば、身体操作の練習をしていれば、ウェイトリフティングやパワーリフティングの試合で良い成績を残せるかと言えば、そういうわけではありません。

達人の領域、見えない力といったものは魅力はありますが、相手の体重や動きを利用することと、自分の体重の数倍の重さを持ち挙げるのは別の話です。

まとめ

今回はレジスタンストレーニングと武道(武術)を例に話を進めましたが、「◯◯よりも△△」「△△があれば◯◯は要らない」といった視点は、それを商売にしている人にとっては大事な話かも知れませんが、現場、臨床では、クライアントさんや患者さんにとって、より良い結果が求められます。

「◯◯もするし、△△もする」「今は○○を優先した方が良い」「□□を応用して取り入れる」といった、個々の具体的なケースで目的を明確にし、よりベターな戦略と戦術を考えることが、実際の話になると思います。そのためには、様々な知識、考え方や視点、引き出しは多いに越したことはないと思います。

-トレーニング, 考え方