(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

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#90 やればやるほど下手になる?

2018/03/25

ボリュームとフォーム

例えば、レジスタンストレーニングのボリュームを設定する際、「とりあえず50kgで10回×3セット」ということもあれば、目的と対象者に合った重量、回数、セット数を設定することもあると思います。

ある程度フォームが安定していれば、ボリュームを予め決めておくことは効率的・効果的な計画を立てる上で必要だと思いますが(もちろん状況によって予定を変更することもあります)、フォームが安定していない状態ではボリュームは二の次になると思います。

二の次と言っても、必ずしもボリュームは小さくなるというわけではありませんが、優先順位はあくまでも適切なフォームの習得になるという意味です。

習得したいフォームと現状のフォームの誤差

不適切なフォームを繰り返すことで怪我をするかも知れませんし、狙った効果を得られないかも知れませんから、初期は適切なフォームの習得に重きをおくことになります。ちなみに適切、不適切というのは、ケースによって違ってきます。

そうすると、習得したいフォームと現状のフォームの誤差を指導者は認識しておく必要があります。ケースによってはすぐに出来ることではないかも知れませんが、習得したいフォームは習得可能であるという前提で、その誤差を如何にして減らしていくかを考えて指導する必要があります。

そして、習得したいフォームと現状のフォームの誤差は、指導者だけでなく対象者も認識することが重要だと思います。指導者の言う通りに実行することが、必ずしも狙った運動の学習に繋がるわけではありません。

誤差を認識していないと改善は難しい?

ただ数を数える?

仮に習得したいフォームと現状のフォームの誤差を指導者が認識していない場合、どういうことが起こるかを考えてみると、例えば「数を数える」ことに終始し、どれくらいのボリュームを行うかが目的になるかも知れません。

誤差を認識していなければ、適切なフィードバックを与えることが出来ませんし、もし狙った効果を得られない不適切なフォームであるにも関わらず、それに気づかずに繰り返すとすれば、不適切なフォームが定着していくということになります。

やった感と実際の効果

ボリュームをこなすことで、やった感、頑張った感、効果出そうな感があるかも知れませんが、実際には一生懸命に不適切なフォームを定着させ、狙った効果を出せないばかりか、怪我をする可能性を高めるために努力するということにもなりかねません。

練習を繰り返し不適切なフォームが定着してもなお、繰り返して練習するという、いわゆる過剰学習によってそのフォームが固定し(過固定)、新たな学習の影響を受けにくくなる、つまり修正が困難となる可能性もあります(参考:Shibata K et al, 2017)。

例えば荷重練習

数字だけを見る

理学療法の臨床実習においても、同じような光景を目にすることがあります。例えば、下肢骨折により荷重制限があり、制限内での荷重練習において、体重計の数値だけに捕らわれて、姿勢や患者さんの主観を確認しないといったケースです。

荷重制限の上限付近の数値に近づけることは確かに目標になるかも知れませんが、例えば正中性の維持や学習といった観点から考えると、どのような立位姿勢で行うのか、患者さんはどのように感じているのかといったことは、必ず考慮すべきことだと思います。

今何をすべきか?

荷重制限がある中で理学療法を行う際、例えば、「たった今、荷重制限が解除されたとしたら、受傷前と比較してどのような誤差が生じるか」を考えてみると、何をしておくべきかが見えてくることも多いと個人的には考えています。そうすると、ただ荷重することに留まることはないかも知れません。

切り上げるタイミング

フォームや姿勢や対象者の主観ではなく、ボリューム、荷重量や荷重時間のみが、その練習を切り上げるか否かの判断材料になると、質を無視した練習ということになると思います。

何が出来るようになれば、対象者がどのように感じれば、といったような、「何がどのようになれば」というポイントが指導者の中にあるかどうかが重要だと思います。その練習における切り上げるタイミング、言い換えればその練習の達成目標がボリューム、荷重量や荷重時間のみでは、運動の質は変わらないかも知れません。

もちろん、疲労や集中力といった他の要素、対象者の上達度といった要素など、様々なことを考慮しながらになりますが、様々な変数を調整しながら、目標と現状の誤差を減らしていくという作業が必要になると思います。

まとめ

「何のために」という目的を明確にすること、その目的を達成するための具体性について掘り下げて考えることが重要だと思います。レジスタンストレーニングのボリュームはもちろん重要な変数ですが、そのフォームについても考える必要があります。

同じように荷重練習の荷重量はもちろん重要な変数ですが、実施中の姿勢を具体的に考えること、患者さんの主観も参考にして受傷前と比較してどのような変化が生じているかを確認し、修正が必要であれば介入するといったことも必要になると思います。

「やらないよりやるほうがマシ」なこともあれば、「やればやるほど目標から遠ざかる」こともあります。私が実習生の時に、バイザーから「悪くしてないからまあOK」という言葉を何度か頂いたことは、もしかしたらこういった観点もあったのかも知れないと書きながら思い出しました。

【参考文献】

・Shibata K et al:Overlearning hyperstabilizes a skill by rapidly making neurochemical processing inhibitory-dominant. Nat Neurosci. 20(3):470-475, 2017. 

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