(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

トレーニング 考え方

#100 理学療法士が何故S&Cの勉強をするの?

理学療法とS&Cは関係ない?

元々はプロ野球のトレーナーになりたいという漠然とした気持ちがあって、そこから特にS&Cの分野に興味を持つようになりました。だんだんと少しずつスポーツに関わりたいという気持ちはなくなってきて、今は病院の理学療法士として楽しく?働いています。

しかし今でもS&Cの分野については文献を読むなり、情報を得るようにしています。とは言っても所詮その専門職と比べたら嗜む程度です。CSCSを再取得したのは、いつの間にか視野が狭くなることを避ける意味もありましたが、関係ない分野ではないと考えているので、触れ続けるという意味もあります。

CSCSを取得しているからといって、アスリートのS&Cコーチが出来るわけではありませんし、私自身が出来るとも思っていませんし、そういう仕事をしたいわけでもありません。適材適所で各分野で真摯に取り組んでいる人がそれぞれの立場で働くことが対象者を含めて大事なことだと思います。

最初にも書きましたが、S&Cの分野は関係ないとは考えていません。リハビリテーションだったら筋力トレーニングは低強度でチマチマしてるんでしょ?というニュアンスの考えの人もいるようですが、ちょっと筋違いです。

患者さんだからこの程度で十分という認識は違う

受傷、発症前の身体能力が目標の上限というわけではないですし、患者さんだから基本動作が自立したらOKというわけでもありません。

もちろん、入院期間は限られていますから、身体機能面だけでなく様々な準備を並行して進めていくことは当然ですし、どこかで折り合いをつけることが現実です。

そのような制限はあるにしろ、患者さんの身体機能を出来るだけ向上させるということが求められるケースは多くあります。

筋力やパワーなどの体力要素はあくまで要素ですから、例えば筋力トレーニングありきというわけではないにしろ、筋力やパワーを向上させる必要のあるケースはありますから、その原理原則の理解は必要だと思います。

患者さんに合わせた工夫が必要

一筋縄ではいかないのは、運動麻痺、感覚障害、疼痛、高次脳機能障害、関節可動域制限、切断など、様々な障害がある中で、原理原則をもとに、どのように筋力やパワーを向上させるかという工夫が必要になります。

筋力やパワーの向上といっても、ダンベルやバーベルありきで考えると、脊髄損傷や脳卒中による運動麻痺、上肢の切断などによって、そもそもダンベルやバーベルを把持出来ないというケースもよくあります。

何のためにという目的が明確であることが前提としてですが、筋力を向上させる具体的な手段というのは、いわゆる健常者やアスリートとはまた違ったアプローチが必要になることもあります。

手段を目的化せずに考える

セラピストの中にも、「ただガシガシ筋トレしても〜」というニュアンスの発言をする人もいますが、手段が目的化しているケースには当てはまりますが、筋力(だけではないにしろ)を向上させる必要があるという、そもそもの目的があるわけですから、レジスタンストレーニングに対するイメージの偏りに過ぎないこともあるように思います。

そういう意味においても、S&Cの分野を学ぶことで、対象者にとってより良いものを提供出来ることも増えると考えています。

切断の患者さんであれば断端を制御するためには、筋力は必要になりますし、下腿切断だと膝関節や股関節、体幹…(結局は全身)、大腿切断だと股関節、体幹…(結局は全身)の筋力やパワーを向上させる必要があります。もちろん、筋力やパワーだけではありませんが。

パラリンピックなどの障がい者スポーツを観れば分かりやすいですが、義足でも走れる人は走れますし、義足だからこの程度でOKというわけではありません。

入院中にあれ程のパフォーマンスを獲得出来るわけでは当然ありませんが、出来るだけ身体機能を向上させる、もしくはそのための土台を作るという視点は必要だと思います。その土台づくりに、S&Cの知見も活用出来ると思います。

動作練習と筋力トレーニングを分けるのは難しいこともある

先ほど書いたように、動作練習と筋力トレーニングや関節可動域練習などを、明確に分けて考えるのは困難です。頸髄損傷のプッシュアップ練習は良い例だと思います。

いわゆる健常者であれば、強度が低くて難なく出来るような動作も、患者さんにとっては強度も難易度も高く、また同じような動作は出来ないこともあります。

例え寝返りや起き上がり動作の練習であっても、それが患者さんにとっては筋力を向上させる練習になることもありますし、その動作をより円滑にするために必要な筋力があるとすれば、そこをターゲットとして要素を取り出す、重みづけをした練習を行うこともあると思います。

また、脳卒中や脊髄損傷などのケースにおいて、自ら動くことで知覚する、その知覚を手掛かりに動くというプロセスの中に、物理的な負荷を増やすこともあると思いますが、それを筋力トレーニングと呼ぶかと言えば、主な目的が違いますから、運動制御を目的とした動作練習とでも呼ぶのでしょうか。

予備力を向上させるという視点

完全対麻痺でも上肢や体幹が機能していれば、筋力やパワーが高ければ動作の自由度も上がりますから(もちろん他の要素も必要です)、受傷、発症前よりも筋力やパワーを向上させることもよくある話です。

ここでまた出てきますが、「ただガシガシ筋トレしても〜」というのは、例えばそれが基本動作やADLに関係なく、筋トレが目的化しているのならわかります。

しかしながら、実際の生活を考えた時に、いつも整った環境、良いコンディションというわけではなく、例えば意図せず床に転倒した際に車椅子やベッドに戻る必要がある、そういう時に予備力があるというのは重要な要素になります。

何度も同じ練習(完全な固定化という意味ではないですが)をすることで動作を学習し、効率化を図るという視点が重要なことは前提として、予備力を向上させるという視点も同じように重要だと考えています。

病院の理学療法士は色々なことをする

アスリートを対象としたS&Cコーチであれば、その専門性と役割はS&Cに関することで、競技のスキルに関しては、競技コーチなどが担当することになると思います。

一方で、様々な病院はあるにしろ、病院で勤務する理学療法士は、筋力などの体力要素を向上させることもすれば、動作を教えることもあります。動作が出来るようになるには、体力トレーニングと繰り返す練習だけでは、不十分なことも多々ありますが、今回は省略します。

「筋力トレーニングはS&Cコーチなどトレーニング指導者の専門領域で、我々理学療法士は〜」という話も聞いたことありますが、個人的には賛同しません。

それはあくまでも、アスリートを対象としたスポーツパフォーマンス向上の一端を担うS&Cコーチということであって、理学療法士が筋力トレーニングという選択肢をわざわざ除外する必要性はないわけです。

もちろん、適切に指導するということが前提ですし、スポーツパフォーマンス向上の為の筋力トレーニングが出来ると言って、患者さんでも余裕で出来るような体操を教えるのは論外だと思います。

理学療法士とS&Cコーチのトレーニング指導能力における違い

まずそもそも、理学療法士の場合は、養成校において、いわゆる筋力トレーニングを体系的に学ぶ機会は殆どないと思います。その部分がまず前提として大きな違いがあります。

S&Cコーチは単に筋力トレーニングを教える専門職ではないですが、個人的に決定的な違いだと思う1つは、長期的な視野で個々に応じた柔軟なプログラムデザインが出来るという点が大きいと思います。新しいことをすればそれなりの反応はありますが、それを効果と呼ぶのは違うということです。

病院の理学療法士は、例えば大学のチームのように約4年間の計画を立てて、患者さんのトレーニング指導をすることはありません。現実的には限られた短い時間であることが殆どですし、トレーニング指導がメインになることもそれほどないと思います(職場と対象者によると思いますが)。

ですから、「そのレベルまでは確かに向上した。しかしそれ以上はどうなのか?」というその先までトレーニング指導で対応することが出来るかと言えば難しいと思います。

もう1つの大きな違いとしては、アスリートの身体能力のレベルの認識だと思います。あくまでも、メディアを見ていて感じることですが、チマチマとした体操レベルのものをトレーニングと謳うのは、恐らくアスリートの身体能力やそのスポーツに必要なレベルの高さを適切に認識していないケースもあるのではという点です。

まとめ

自分の働く場所で置かれた立場で、出来ることをするということで、わざわざ選択肢を狭める必要はありませんし、選択肢として有効に活用する為には、それを学ぶ必要があるということだと思います。

出来ないことを出来ると振舞っても、誰も恩恵を受けません。自分の身の程を知るということと、自分の可能性を探るという意味でも、他職種との関わりは大事だと考えています。

今回の内容は、理学療法士がS&Cの分野を学ぶことで、S&Cコーチも兼任出来るという話ではなく、あくまで理学療法の臨床において、その知識を活かすということです。患者さんにとって、より良い臨床をする為にわざわざ視点や選択肢を限定する必要はないと思います。

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