(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

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#104 ある患者さんとALS、人工呼吸器、閉じ込め症候群の話

2018/01/08

あるALSの患者さんの話

「孫の成長を見たい」

ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された、ある患者さんがいました。かろうじて歩くことや食べることは出来る状態でしたが、将来の人工呼吸器の装着の意思決定について悩んでおられました。

ご本人は人工呼吸器を装着してまで生きたくないと考えており、医師にもその旨を既に伝えていました。しかし、まだ幼い孫の成長を目の当たりにする機会があったことで、「孫の成長を見たい気持ちもあるから悩んでいる」という話をされました。

「先生ならどうしますか?」

「先生ならどうしますか?」という質問に簡単に答えられるはずもなく、患者さんの想いを聞きながら、紹介できる情報も含めていくつか話をしました。

ただ、どちらを選択するかについて、偏った影響を与えないことには十分留意する必要があると思いましたし、何よりその話を聞いて何とも言えない気持ちになっていました。

様々な意思決定の要因

家族や他人に迷惑をかけたくない、家族の意向、死生観、生きがい、自己イメージ…様々な意思決定の要因があるでしょうし、どちらの選択が正しいか間違っているかという話ではないし、しかしいずれは選択を迫られるという現実があります。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが選択的に変性・消失する進行性の疾患です。いくつかのタイプに分けられますが、いずれにしても呼吸筋麻痺を呈し、いずれ延命のためには人工呼吸器が必要になります。人工呼吸器装着の意思決定を迫られることになります。

人工呼吸器によって延命を図ることは出来ても、いずれは全く身体が動かなくなり、相手の話を理解は出来たとしても、表出することが出来なくなります(次項参照)。

進行具合によってコミュニケーションの手段を選択していきますが、BCI(brain-computer-interface)を利用したものも開発されており、こういった技術が進めば全く身体が動かなくとも、正確に表出することが出来るようになるかも知れません。

閉じ込め症候群(locked-in syndrome)とは

閉じ込め症候群とは、外界を認識することは出来るが、発声、四肢や眼球の動きなどによって意思を表出することが困難な状態を指します。閉じ込め症候群はALSに限らず起こり得るものですが、進行によって眼球運動も含め完全に動けなくなりますから、totally locked-in syndromeと呼ばれています。

閉じ込め症候群の「yes」「no」の推定

Chaudharyらの実験

いわゆる閉じ込め症候群を呈するALS患者を対象に、脳血流と酸素濃度、脳波から、質問に対しての答えが「yes」「no」のどちらかを推定する実験を行いました。

Chaudhary U et al, 2017. より引用

その中の質問には、「生きていて幸せか?」という質問がありました。1名は家族の意向によりその質問はされませんでしたが、他の3人は「yes」の反応がみられました。

閉じ込め症候群でも幸せかも知れない

この研究によって閉じ込め症候群を呈している患者さんは、「生きていて幸せである」とは簡単に言えませんが、少なくともこのような例が示されたことで、人工呼吸器を選択した患者さんの想いを確認出来ない家族にとって、支えになることもあるかも知れません。

まとめ

個人的には、生きること、死ぬことについて、普遍性があるかのように容易にしたくない気持ちがあります。しかし「価値観は人それぞれ」とも容易に語りたくないという気持ちもあります。今回の記事は、ある患者さんの話から、書き留めておきたいという備忘録的な記事です。

【参考文献】

Chaudhary U et al:Brain-Computer Interface-Based Communication in the Completely Locked-In State. PLoS Biol. 15(1):e1002593, 2017.

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