(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

トレーニング 考え方

#106 一流アスリートが実践するトレーニング?

2018/01/08

一流アスリートのトレーニング

一流アスリート、人気モデルになれる?

「一流アスリートが実践しているトレーニング」「人気モデルのダイエット法」といった文言は、メディアでもよく見かけます。インパクトのある表現ですから、目を引きやすいのだと思います。

目を引かれる理由はそれぞれあると思いますが、「そのトレーニングを実践したら、一流アスリートに近づける」「そのダイエット法を実践したら、人気モデルのような体型になれる」という連想が生まれるというのもあると思います。

そこまではいかなくても、「あの人がやっているなら、効果があるに違いない」と考える人もいると思います。こういったことは、多かれ少なかれ誰でもあるのかも知れません。憧れや尊敬する人のアドバイスなら受け入れる、という人もいます。

「○○選手が実践しているトレーニング」というのは、その○○選手のパフォーマンスが高いほどインパクトが強くなりますし、○○選手本人がその効果を語ると尚更です。憧れの選手がやっているトレーニングを実践したいと思うのは、自然なことだと思います。

しているから凄いのか、凄い人がしているのか?

しかし、「そのトレーニングを行っているから、○○選手のパフォーマンスが高い」のか、「パフォーマンスの高い○○選手が、そのトレーニングを行っている」のかでは、話が違ってくるかも知れません。つまり、そのトレーニングの効果については、少なくともメディアからの情報だけではわかりません。

因果関係と相関関係

「原因と結果」の経済学

話題になっている本なので、今さら紹介するのもどうかと思いますが、こういった話についてわかりやすく書かれています。因果関係と相関関係を混同しているものも少なくないですから、情報リテラシーを身につける意味では、こういった本は役に立つと思います。

因果関係と相関関係を混同しない

この本にも書かれていますが、因果関係と相関関係を混同すると、誤った判断のもとになります。限られたお金や時間を費やすのであれば、より可能性の高い選択をしたいというのが、多くの人が思うことだと思います。

「因果関係」と「相関関係」という言葉を知らない人でも、自然に理解している人もいれば、そうでない人もいると思います。説明するまでもない人が殆どだと思いますが、一応簡単に書いておきます。

因果関係とは

「2つの事象のどちらかが原因で、どちらかが結果である」ということです。

相関関係とは

「2つの事象は関係があるが、原因と結果の関係ではない」ということです。

毎朝カレーを食べればイチロー選手になれる

カレーの効果?

一昔前に、「イチロー選手は毎朝カレーを食べている」という話題がありましたが、あの話題にしても、カレーの成分を取り上げて、「毎朝のカレーが一流のパフォーマンスに繋がっている」という話に結びつけているものもありました。

実際は、その話題が出た頃は、イチロー選手自身はカレーを毎朝食べていなかったようですが、「あのイチロー選手が」というインパクトによって、「毎朝カレーの効果」を語る人がいたり、実践する人がいたりしたのだと思います。

イチロー選手のトレーニングを真似したら効果がありあそう?

「毎朝カレーを食べれば、イチロー選手のパフォーマンスに近づける」と言えば、殆どの人が否定するはずですが、「イチロー選手の実践しているトレーニングをすれば、イチロー選手のパフォーマンスに近づく」と言えば、前者よりも否定する人が減ると思います。

感想に感想を重ねて申し訳ないですが、身体運動というカテゴリーを設けるとすれば、トレーニングも野球も同じカテゴリーに入りますから、毎朝カレーを食べるよりも、効果がありそうな感じがするという人もいるかも知れません。それに加えて、専門用語を並べて修飾すれば、もっと増えると思います。

パフォーマンスは複雑

パフォーマンスの構成要素とコンディショニング

アスリートに限った話ではなく、身体運動のパフォーマンスを構成する要素を便宜的に分けていくと、かなり多くの要素があります。筋力、パワーといった体力要素だけでもありません。「コンディショニング」という言葉をある程度広義に捉えると、十分ではありませんがパフォーマンスを考える上で、その複雑さが捉えやすいかも知れません。

【参考記事】

(リ)コンディショニングメモ #1 コンディショニングとは?

また、神経系といって何だかうやむやにされているものを、神経科学の知見などを参考にして考えていくと、さらに複雑になっていきます。

しかし、複雑だからと言って、複雑なことをしなければならないというわけではないと思います。ただ、複雑なものを便宜的にシンプルに捉えているということを自覚していないと、「○○をすれば良くなる」「○○は効果的だ」という発想に気づかない内に陥るかも知れません。

そのアウトカムは本来の目的と合致しているのか?

実際の臨床を考えると、「○○をしたから、△△が出来た」というように、因果関係を特定することは難しいと思います。仮に因果関係を分かりやすくするために、例えば、関節可動域とストレッチングを取り上げて、「ストレッチングをしたら、関節可動域が改善した」としても、その関節可動域の改善が何に繋がるのかという部分が重要になります。

これを逆手にとってセミナーなどで、そのアウトカムは臨床の何に役立つのかという視点は無視して、ある変化を強調するといった方法があります。その変化に驚いて持ち帰っても、役に立たないかも知れません。もちろん、使える人は使えるはずですけど。

話を戻しますが、「関節可動域は改善したが、特にポジティブな影響はなかった」のであれば、関節可動域の改善が果たして必要だったのかということになりますし、そもそも目的は何だったのかという話になります。学んだ手技を使うことが目的なら本末転倒ですし、それなら臨床しない方がよいということになります。

ただ、因果関係を特定することは難しいと言っても、「闇雲にとにかく色々やればよい」では、打率も低くなるでしょうし、変わらないどころか悪くなる可能性も高くなります。因果関係を特定することは難しくても、仮説を立てる、実践する、結果を解釈する、…そういった作業の質を高めることは重要だと思います。

そのためには、知識や技術や経験が必要になります。仮説がなければ具体的な介入は出来ないと思いますが、もし仮説なしに何かを出来るとすれば、「○○は効果的だ」という、手段ありきの思考があるのではないかと考えています。「○○選手が実践しているから効果があるはずだ」という思考も、同じようなことだと思います。

まとめ

「一流アスリートが実践しているトレーニング」というのは、あくまでもキャッチコピーであって、それをすれば一流のアスリートになれるわけではありません。そもそも、そのようなキャッチコピーに限らず、手段ありきの話にはならないはずです。

ですから、「一流アスリートが実践している○○」「○○は効果的なアプローチだ」という文章の○○の中に、自身が用いることのある手段が入る時だけ批判しないのは都合が良すぎるので、少しばかり気をつけた方がよいだろうなと思います。

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