(リ)コンディショニングメモ

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運動学習 トレーニング 考え方

#108 学習の特異性について

2018/01/07

学習の特異性

基本動作やスポーツの動作において、その要素を切り取って練習することがあります。いわゆる分習法と呼ばれる方法で、切り取り方と繋げ方(全習法との組み合わせなど)によっては、有効な手段になり得ることもあると思います。

しかしながら、動作には連続性がありますから、その流れを無視してぶつ切りにして、それらをまたつなぎ合わせるといった方法では、上手くいかないかも知れません。この辺りはどこかで考えてみたいと思います。

学習の特異性(specificity of learning)と呼ばれるものがありますが、これは学習した運動を条件を変えることで、汎化に制限が生まれるということです。言い換えれば、(運動)学習は練習する条件に依存するということです。

視力を鍛えると競技力向上に活きるのか?

■アスリートの視覚能力

クレー射撃の選手11名と初心者12名を対象に、さまざまなテストを実施し視覚的特徴を調べた研究があります(Abernethy B et al, 1999)。静的および動的な視力、目の筋バランス、眼優位性、奥行き知覚が、単純・選択反応時間、周辺反応時間などに加えて計測されました。

その結果、両群において有意な差はみられませんでした。そのことから、各視覚能力を高めるようなトレーニングを行うことは、生産的とは言えないということを示唆しています。

この結果から考えると、クレー射撃の高いパフォーマンスは、各視覚能力が優れていることによるものではなく、クレー射撃というスポーツに特異的に発揮されているものがあると考えることが出来ます。各要素に分けることは出来ても、実際のパフォーマンスは様々な要素が統合して成り立っているものと言えるかも知れません。

■野球選手の反応課題

Kidaらは、大学生82名(野球選手22名、テニス選手22名、非スポーツ選手38名)、プロ野球選手17名を対象に、単純反応時間およびGo/Nogo反応課題(反応と抑止をテスト)を行いました。

その結果、単純反応時間においては各群において有意な差はみられませんでした。一方で、Go/Nogo反応課題はプロ野球選手が最も成績が良いという結果となりました。

また高校生94名(野球選手26名、非野球選手68名)が長期的にバッティング練習を行った結果、単純反応時間は一定でしたが、Go/Nogo反応課題の成績は向上していました。

この結果から、バッティングにおいて、ボールを見極めスイングするか否かを瞬時に判断するという、特異的な課題による学習効果が、Go/Nogo反応課題に汎化されたと考えることが出来ます。しかしながら、Go/Nogo反応課題を訓練すればバッティングにポジティブな影響を与えるかどうかはこの研究ではわかりません。

■空間性ワーキングメモリと視覚運動適応課題

Anguera JAらの実験によると、空間性ワーキングメモリの疲労プロトコル前後の、視覚運動適応課題の成績を比較すると、疲労プロトコル後のパフォーマンスに低下がみられました。

Anguera JA et al, 2012より引用

しかし、疲労プロトコル内の空間性ワーキングメモリ課題ではないDigit Symbol taskの成績には低下がみられませんでした。このことからワーキングメモリにおける資源の違いと、特異性が示されていると考えることが出来ると思います。

一方で、空間性ワーキングメモリのトレーニングは、視覚運動適応能力の向上がみられませんでした。つまり、要素を取り出してトレーニングを実施しても、パフォーマンスの向上がみられなかったということになります。

まとめ

基本動作にしろスポーツ動作にしろ、動作におけるスキルを上達させる上では、その動作そのものを行う必要があります。その一方で、動作を構成する一部の要素を取り出すことで、課題に集中することが出来るといったメリットがあります。

しかしながら、今回紹介した研究のみでは明らかに不十分であるものの、その要素を改善することが全体的なパフォーマンスにポジティブな影響を与えるかについては、慎重に考えて実施する必要があると言えると思います。

【参考文献】

・Abernethy B et al:Visual characteristics of clay target shooters. J Sci Med Sport 2:1-19, 1999.

・Anguera JA et al:The effects of working memory resource depletion and training on sensorimotor adaptation. Behav Brain Res. 228(1):107-15, 2012.

・Huet M et al:The education of attention as explanation of variability of practice effects: learning the final approach phase in a flight simulator. J Exp Psychol Hum Percept Perform. 37(6):1841-54, 2011.

・Kida et al:Intensive baseball practice improves the Go/Nogo reaction time, but not the simple reaction time. Brain Res Cogn Brain Res. 22(2):257-64, 2005.

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