(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

トレーニング 指導関連 考え方

#15 「力を抜け」というアドバイスについて

2018/01/12

「力を抜け!」で上手く動ける?

スキルの熟練度

「力を抜け!」という指導と言いますか、声かけはよくあるように思います。一時期は「脱力」だとか、「ゆるむ」といったことがキーワードとなって、よく見聞きしました。

慣れていない運動は程度に差はあれど、過剰な努力というのはどこかにあることが多いと思います。身体をどのように動かして良いのかわからないので、必要なタイミングで必要な部分の出力が不足していて、代わりに他の部分の出力が過剰になっているといったこともあると思います。

結果的に過剰な力が抜ける

全てのケースにおいてそうなっているとは言えませんが、過剰になっている部分を指して、「力を抜け!」と言ったところで、本来必要な部分の出力が高まらなければ、さらにどうすれば良いかわからないかも知れません。

そうではなくて、「結果的に過剰な努力が軽減するような教示」を与えるといった方法を、指導者は持っておく必要があると思います。導きたい運動をそのまま言語化して与えるのであれば、誰でも出来る仕事です。

「力を抜け」というなら普段からその練習をすべき

「力を抜け」では指導になってない

そもそも、「力を抜け」という声かけは、ほとんどの場合は指導になっていないように思います。もし、その声かけをするのであれば、普段の練習やトレーニングの時から、リラックスする感覚、スムーズに動く感覚というものを養っていることが前提であるように思います。

「力を抜け」という言葉がアンカーとなって、運動がスムーズになるのであれば、それは適切な声かけだと言えますから、その言葉自体を否定するつもりはありません。

適切なタイミングと適切な出力

運動時は「力を抜く」というよりも、筋出力の観点で言えば、適切なタイミングで適切な出力の調整が出来ているかどうかということと言えます。「力を抜く」と言っても、完全な脱力は不可能ですから、協調的な動きのための筋出力の調整が重要ということだと思います。

自覚がないかもしれない

そう考えていくと、余計に力が入っているといった場合は、やはりその運動がまだ獲得出来ていない、熟練していない段階である可能性が高いと言えます。そもそもそういったケースでは特に、「力を抜け」と言っても、力が過剰に入っているという認識はないかも知れません。

個人的な話だと、理学療法学生の時に実技練習で「もっと力を抜いて」と言われたことがありますが、当の本人は「いや抜いてるし」と本気で思ってました。今考えるとヘタクソ極まりないレベルでしたが、「出来ていないことがわかっていない」段階だったということです。

マトヴェーエフ博士の著書より

トレーニング関連の専門書において、過度な緊張を防ぐ重要性に触れている本は少ないかも知れませんが、マトヴェーエフ博士の著書には書かれています。その中の一部を引用します。

『筋肉を合理的に弛緩させる能力を養成することは、筋肉を緊張させる能力の養成と同じくトレーニングの重要な一面である。筋肉の過度な緊張をあらかじめ防ぎ、また取り除くことは決して副次的課題ではなく、運動の学習および基本的身体能力の養成において一つの柱である。』

L.P.マトヴェーエフ著, 魚住廣信監訳, 佐藤雄亮訳:ロシア体育・スポーツトレーニングの理論と方法論, 204. NAP Limited, 2008.

これを参考に考えると、やはり普段からそういったことに取り組むことが重要だということになります。結局のところ、「何のために」を考えれば、上手く動くためと言えますから、そういった視点で考えると「力を抜け」という声かけも、「それが出来れば苦労しない」ということで、適切な声かけとは言えないケースも多いと思います。

まとめ

注意をどこに向けるか、どのような動きを目標とするのか、現在との誤差を指導者も対象者も認識して、誤差を減らしていく作業が必要になると思います。「力を抜け」というセリフに限らずですが、そういった作業において、その言葉は果たして適切なのかを考える必要があります。

確かに「(余計な)力を抜け」というのは、感覚の知覚や、動作の効率性といったことを考えれば必要なことですが、それをそのまま表現するのは、「上手く動け」と言ってることとあまり変わらないかも知れません。

「結果的に過剰な努力を軽減する」方法を用いることも必要だと思いますし、そもそも「力を抜くこと」自体が目的ではなく、運動の上達が目的なのであれば、如何にしてそれを図っていくかということを考える必要があります。

「脱力が大事」「ゆるむことが大事」というのは、ある観点で考えると正しいかも知れませんが、それ自体が目的にはならないので、あまり言葉に捕らわれすぎないように気をつける必要があります。

-トレーニング, 指導関連, 考え方
-, , ,