(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

神経科学 用語の定義 考え方

#2 「廃用症候群」と「疼痛」について

2018/01/07

廃用症候群の定義

廃用症候群(Disuse syndrome)とは、Hirschbergによれば、「不活動状態により生じる二次障害」と定義されています。つまり疾病そのものによる障害ではありません。

不活動状態によって、筋力低下、感覚障害、関節可動域制限、心肺機能の低下、消化器系の機能低下、認知機能の低下、うつ状態、褥瘡など、様々な障害が起こり得ます。

骨折による不活動

■骨折による廃用症候群

例えば、大腿骨を骨折して体重をかけられない状態になったとすると、もともと寝たきりでなかったのであれば、受傷前よりも身体活動が制限されます。ですから、先ほど挙げたような障害が起こる可能性があります。

■ルーの法則と廃用症候群

「ルーの法則」というものがありますが、その中の、「不活動性萎縮」が一部当てはまると言えます。ルーの法則はトレーニングの原則の基になるものです。

【ルーの法則】

ドイツの学者であるWilhelm Rouxによる理論です。

・活動性肥大

・不活動性萎縮

・長期にわたる機能向上制限による器官の特殊な活動能力減退

よく言われる、「刺激を与えれば適応(肥大)し、刺激がなければ適応(萎縮)し、刺激が過度であれば適応(能力低下)する」というものです。

かなり雑な例を挙げると、力を出さなければ出なくなってくるし、関節を動かさなければ可動域が狭くなってくる、そういったことになります。身体活動量が減ると関連する体力要素も低下していくということになります。

スポーツ選手の怪我

■スポーツ選手の廃用を予防する

スポーツ選手の怪我も同じことが言えます。例えば野球のピッチャーが足首を怪我して、体重をかけることが出来ないといった状態になるとします。立ってしっかりボールを投げることが出来ない状態だと、ピッチング練習が出来ません。

しかし、足首以外の部分は問題ないわけですから(細かい話をすれば他の部位にも影響を与えますが)、足首は適切に保護しながら出来る運動はたくさんあります。足首を怪我したことで他の部位を鍛えないのであれば、足首が良くなっても全体的な体力低下からは逃れられませんから、復帰はかなり遅れることになると思います。

■運動イメージや運動観察の利用

また、実際にピッチング練習が出来なくても、運動イメージや運動観察(参考記事:#72 「運動イメージ」について)によって、足首が良くなった時に、よりスムーズなピッチング練習の再開が出来る可能性もあります。

そのように、例え制限があったとしても、その中で出来ることはたくさんあるかも知れません。この例では、廃用症候群というよりも、デコンディショニングを出来るだけ防ぐという表現になるかと思います。

■コンディショニングの視点で考える

「ピッチング練習が出来ない=ピッチングに関連する要素にアプローチ出来ない」わけではありません。前回の記事(#1 コンディショニングとは?)に書いたように、コンディショニングの考え方を参考にすれば、視野は広がると思いますし、ポジティブに考えて「今だから集中して出来ること」を見出すことも出来るかも知れません。

ある手段を用いることが目的化していると、「ピッチング練習が出来ない=ピッチングに関連する要素にアプローチ出来ない」といった思考に陥るかも知れませんが、本来の目的を見失わなければ、アイデア次第ということになると思います。

不動は痛みの原因にもなる

■固定・免荷と疼痛~慢性痛、CRPS~

骨折などによってギプスやスプリントによる固定がされることがあります。これ自体は損傷した組織の治癒を目的にしたものです。しかし、このような固定や免荷(荷重制限)、安静による不活動によって、痛みや慢性痛の原因になると言われています。

難治性の慢性痛である複合性局所疼痛症候群(CRPS:complex regional pain syndrome)と診断された患者を対象にした調査では、134人のうち、47%の患者が患部の固定をされていたとのことです(Allen G et al, 1999)。

Terkelsenらの実験では、健康な対象者に対して手関節のギプス固定を4週間行ったところ、親指と人差し指の間への圧迫刺激による疼痛閾値は、ギプス固定を解除した28日後においても低下していました。

このように様々な研究から、痛みは不動によって引き起こされることが明らかになっています。つまり、不活動による二次障害つまり廃用症候群には疼痛も含まれると言えます。

■疼痛に対する腱振動刺激による運動錯覚の効果

Imaiらは、慢性痛を引き起こしやすいとされる橈骨遠位端骨折の患者を対象に、術後翌日から腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることによって、痛みの軽減、痛みの情動面の改善、その効果は術後2ヵ月後も持続したことを報告しました。

【腱振動刺激による運動錯覚とは】

腱振動刺激による運動錯覚とは、腱に振動刺激を与えることによって筋紡錘が興奮し、筋が伸張されているという情報が脳に伝わることによって、関節運動が起こっていると感じる錯覚のことです。

Imaiらは、実際の関節運動時と、運動錯覚時の脳活動を比較したところ、どちらも共通した運動感覚領域が活性化していたことを報告しています(Imai R et al, 2014)。

まとめ

怪我や病気によって、安静を強いられることは仕方ないケースも当然あります。しかし、必要以上に安静にすることによって、廃用症候群という二次障害を来すことになります。

そうすると、怪我や病気から回復した時、取り戻すことにかなりの時間と労力を要することになります。慢性痛、局所疼痛症候群(CRPS)は難治性ですから、可能な限り予防しておきたいものになります。

ですから、してはいけないことと、そうではないこと、注意すればして良いことなどを明確にし、出来る限り廃用症候群を予防する必要があります。

特に、入院するケースであれば、もともとの生活にもよりますが、安静度に関係なく身体を動かす機会が減りますし、人と話す機会も減ると思います。また、ベッドで過ごす時間が長くなると、睡眠のリズムも乱れてくるかも知れません。

そういった患者さんと関わる専門職であれば、必要以上の安静を防ぐために、患者さんの要望なども確認しながら、患者さんの入院生活について工夫する必要があると思います。その中で、患者さんの痛みや不安や恐怖に配慮することは不可欠であると言えます。

【参考文献】

・Allen G et al:Epidemiology of complex regional pain syndrome: a retrospective chart review of 134 patients. Pain. 80(3):539-544, 1999.

・Imai R et al:Brain Activity Associated with the Illusion of Motion Evoked by Different Vibration Stimulation Devices: An fNIRS Study. J Phys Ther Sci. 26(7):1115-1119, 2014. 

・Imai R et al:Influence of illusory kinesthesia by vibratory tendon stimulation on acute pain after surgery for distal radius fractures: a quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 30(6):594-603, 2016. 

・Terkelsen AJ et al:Experimental forearm immobilization in humans induces cold and mechanical hyperalgesia. Anesthesiology. 109(2):297-307, 2008.

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