(リ)コンディショニングメモ

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トレーニング ピリオダイゼーション

マトヴェーエフ博士のピリオダイゼーションについて

はじめに

ピリオダイゼーションについては、NSCAのエッセンシャルにも触れられています。しかし、ピリオダイゼーション理論の生みの親とも言われているマトヴェーエフ博士によると、アメリカのピリオダイゼーションは別物であるといいます。

そこで今回は、マトヴェーエフ博士の文献や、マトヴェーエフ博士と親交があり、日本で一番ピリオダイゼーションを理解されているであろう魚住廣信先生の文献などを基に、概要を整理してみたいと思います。

10万件のデータを基に生み出された

マトヴェーエフ博士によるピリオダイゼーション理論は、約10万件の世界のスポーツチャンピオンの成績変動の公式データを基に生み出されました。それらのデータは10年以上かけて集められたそうです。

これが実現出来たのは当時旧ソ連の体制と、マトヴェーエフ博士が国から理論的研究を任されたという背景があるようです。

ピリオダイゼーション理論が生まれたきっかけ

マトヴェーエフ博士の驚き

ピリオダイゼーション理論が生まれる動機は、ある驚きである。それは、高い記録(好成績)をもつ選手がなぜ、主要な大会(世界選手権、オリンピック)で低い記録の選手に負けるのか、その理由が知りたかったということである。

その答えを得るため、世界のトップレベルの選手の実践記録から何千ものケースの分析を行った。選手1人ひとりの競技記録の個人的な変動を分析したのである。分析の結果、次のことがわかった。

選手は1年のうち毎月、絶えず自分の記録を向上させてはいない。トップレベルの選手が高い記録を出し、それをさらに伸ばす時期もある。しかしこれらのピリオドの間に、記録が下がる別のピリオドが存在する。そこで、これは何によるものかと原因を探り始めたのである。

魚住廣信:マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論誕生の経緯, 兵庫大学論集 8, 9, 2003.

選手の成績をみてみると、記録を持つ選手が負けるといったことは、よくある話です。この要因として、コンディションの問題として語られることがありますが、マトヴェーエフ博士は多くの選手の成績と変動について分析をしていきました。

選手の競技成績の変動の要因

季節による変動?

当時は、選手の競技成績と変動は季節に左右されると言われていたようです。しかしマトヴェーエフ博士らの研究では、トップレベルの選手の実際には当てはまらなかったとのことです。

選手はまったく異なった気候条件で暮らしており、季節も一致していない。オーストラリアとヨーロッパ諸国を比較してみればわかるだろう。加えて、成績の変化は「季節」説を支持する人の予想とは異なっているのである。すべての選手が、好成績を記録するピリオドと成績を出せないピリオドをもっている。

魚住廣信:マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論誕生の経緯, 兵庫大学論集 9, 21, 2003.

競技カレンダーの影響?

季節による影響の他に、競技のスケジュールが影響しているという考えもあったようです。確かに季節は国によっても違いますが、国が違っても競技スケジュールはその試合に合わせるので、影響があるという考えも当然ありそうです。マトヴェーエフ博士らは分析によって、それも主な要因ではないと結論づけています。

また、「競技カレンダー(スケジュール)が影響を与えている」という考えもあった。我々は再び、さまざまな競技カレンダーのもとで出された結果の変動の分析を行った。いずれにしても、ここでもすべての選手に成績変動のサイクル的な変化があった。

そこで我々は、「競技カレンダーは、なぜ結果・成績にサイクル的変動が見られるのかを説明する主な要因ではない」という結論を出したわけである。

魚住廣信:マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論誕生の経緯, 兵庫大学論集 9, 21, 2003.

マトヴェーエフ博士は、選手の競技成績の変動に、季節や競技カレンダーの影響は「ない」と結論づけているわけではありません。ピリオド(ピリオドについては後に記載)が変化する「主要な」原因ではないということです。季節や競技カレンダーではない何かをマトヴェーエフ博士らは調べていきました。

法則性の発見

3つの段階の発見

選手のトレーニングをどのように組み立てるか、どのような生物学的要因およびその他の要因が選手の成績変動に影響を与えるかを研究していく中で、法則性があることを発見しました。それは、「競技成績の変動には、必ず3つのピリオドの交替が起こる」ということです。

①高い記録を出すことのできる状態(※スポーツ・フォーム)を獲得するピリオド

②期間に差はあるものの、スポーツ・フォームを維持するピリオド

③スポーツ・フォームを一時的に失うピリオド

※【スポーツ・フォームとは】

『「記録達成に対して、肉体・技術・戦略・メンタルのバランスの取れた最良の仕上がり状態」ということになる。実際のスポーツにおける定義では、「あるマクロ・サイクルにおける」というただし書きをつける必要がある。

あくまでも「永遠に続くわけではない」「進化をする選手によって更新される」ことが用語の表現に反映されていなければならないため、これでスポーツ・フォームのもつ意味合いが強調される。』

魚住廣信:マトヴェーエフ理論に基づくトップアスリートの育て方, NAP Limited, 10, 2010.

「準備期」「試合期」「移行期」

3つのピリオドは、実際のトレーニングにおいては、「準備期」「試合期」「移行期」に当てはまります。先ほどの表に付け加えると以下のようになります。

①高い記録を出すことのできる状態(※スポーツ・フォーム)を獲得するピリオド…【準備期】

②期間に差はあるものの、スポーツ・フォームを維持するピリオド…【試合期】

③スポーツ・フォームを一時的に失うピリオド…【移行期】

マトヴェーエフ博士のスポーツトレーニングのピリオダイゼーション理論は、チャンピオン育成のためのマクロサイクルです。このマクロサイクルに、「準備期」「試合期」「移行期」という3つのピリオドがあります。

ピリオドはこの3つであり、段階はその中にあります。例えば、最大筋力を養成する期間と、養成した最大筋力をパワーの獲得へと移行する期間に分けて、それをピリオダイゼーションと呼んでいるケースがありますが、それはマトヴェーエフ博士のピリオダイゼーションの概念ではなく、単に段階の違いであると説明しています。

また、例えば、試合が始まると「準備期」が終わり「試合期」が始まるわけではありません。「準備期」は「スポーツ・フォームを獲得するピリオド」なので、スポーツ・フォームが獲得されていないのであれば、まだ「準備期」であり、スポーツ・フォーム獲得のためのトレーニングは継続する必要があります。

常に最適な状態でいることは不可能

競技成績の変動の3つの段階からわかる重要なことは、「常に最適な状態でいることは不可能」であるということです。これは、様々なスポーツを観ていても感覚的にも理解出来ると思います。

ハンス・セリエは適応症候群の3つの段階、「警告反応期」「抵抗期」「疲憊期」を発見しました。常にストレスが繰り返されると、次第に疲弊してしまうということです。

そして、スズダリニツキーとリヴァンドの研究により、人間の慢性的作用の問題は、セリエの適応理論だけでは説明出来ないことが示唆されました。

彼らは、免疫不全の変化という独自の段階を打ち出した。それはセリエの適応症候群の段階と似ているが、違うプロセスの段階である。つまり、トレーニング負荷、トレーニング強度が増すと、それに対する反応の第1段階として免疫能が高まる。すなわち、免疫力が向上するということである。

次に、負荷を増加し続けると、免疫不全を補填する段階がはじまる。ここで選手は十分に能力があり、記録も出せる状態にありながら、同時にいくつかのシステムが衰えはじめ、免疫反応を活性化することができなくなる。活動でいる状態にありながら、一方で免疫反応が低下しはじめるといわれる。

魚住廣信:マトヴェーエフ理論に基づくトップアスリートの育て方, NAP Limited, 37, 2010.

こういった話題は、メディアを通じても目にすることがあると思います。スポーツのパフォーマンスが高い状態だからといって、必ずしも免疫力が高い状態ではないかも知れません。

ですから、成長においての代償と言えますが、それによって体調不良に陥る前に、(積極的)休息が必要になります。この辺りはまた別の機会に触れたいと思います。

生物学的法則を見守るのではない

これまで書いてきた法則があるにしても、真に管理するのであれば、ピリオドごとにスポーツトレーニングおよび訓練の内容と構成を、全体的に変える必要があるとマトヴェーエフ博士は述べています。

「サイクル」「ピリオド」について

ピリオダイゼーションに関する文献などでは、「サイクル」という用語が「周期」と訳され、「ピリオド」も同様に「周期」と訳されることがあります。しかし、マトヴェーエフ博士の指す「サイクル」と「ピリオド」は別のものなので、混乱が生じているようです。

すべての生命プロセスや活動プロセスはサイクル的な性質があり、生命や生き物の発達はサイクル的であるとマトヴェーエフ博士は述べています。トレーニングは年間やそれに近いサイクル(マクロサイクル)の中で法則的な変化を遂げることを発見し、それが先に触れた3つの「ピリオド」です。

サイクルにはさまざまな長さがある。最も短いサイクルには、ミクロ・サイクルとメゾ・サイクルがあり、これは数日間から1週間、数週間という長さである。そしてマクロ・サイクルはそれより長いサイクルで、数ヵ月、数年、1年間、あるいは数年間という規模である。

魚住廣信:マトヴェーエフ理論に基づくトップアスリートの育て方, NAP Limited, 29, 2010.

最後に

もともとマトヴェーエフ博士によるピリオダイゼーション理論は、オリンピックにおいてチャンピオンを育てる目的のものです。ですから、商業スポーツなど試合数が多いスポーツは、そもそもスポーツ・フォームを獲得することが困難です。

マトヴェーエフ博士は、このような選手は、トレーニングのサイクル化は異なった形で行う必要があると述べています。ですから、オリンピック本番にスポーツ・フォームを獲得するという、本来のピリオダイゼーションをそのまま当てはめることは出来ません。

しかし、ピリオダイゼーション理論が参考にならないかと言えばそうではなく、長期的な視点でコンディショニングを考える上では、重要な情報と言えると思います。

いずれにしても、選手が年間を通じてスポーツ・フォームもしくは調子が良い状態を維持することは不可能であり、パフォーマンスが下がる時期があるのは自然なことと言えます。そこを無理に引き上げようとすることで、オーバートレーニングに陥り不可逆的な問題を来す可能性があります。

今回はあくまで概要に触れたのみであり、その概要も不足があります。また機会があれば少し詳しく掘り下げた内容について書いてみたいと思います。

【参考文献】

魚住廣信:スポーツトレーニング理論の構築:マトヴェーエフ理論の本質を探る, 兵庫大学論集 5, 1-9, 2001.

魚住廣信:マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論の弁証法的唯物論的解析, 兵庫大学論集 7, 13-26, 2002.

魚住廣信:マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論誕生の経緯, 兵庫大学論集 8, 1-21, 2003.

魚住廣信:マトヴェーエフ理論に基づくトップアスリートの育て方, NAP Limited, 2010.

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