(リ)コンディショニングメモ

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トレーニング 用語の定義 考え方

"biomotor abilities"とスポーツトレーニングについて

2018/09/25

はじめに

「目的があって手段がある」というセリフは何度も見聞きしますし、手段が目的化することが必ずしも不適切とは言えないとしても、他人の身体に関わる専門職であれば、やはり目的に合った適切な手段を用いたい、目的を達成したいと考えるのではと思います。

スポーツに限らずですが、「基礎体力が大事」「フィジカルが大事」ということで、文脈によってそれが何を指すのかは違うにしろ、何らかの体力要素を高める必要があるというケースは確かに存在します。

今回は、"biomotor abilities"の開発について書かれたTudor O. Bompaの著書を参考にしながら、話を進めていきたいと思います。

biomotor abilitiesについて

"biomotor abilities"とは

"biomotor abilities"とは見慣れない(聞き慣れない)かも知れませんが、「筋力」「持久力」「スピード」「調整力」「柔軟性」という、いわゆる狭義の体力要素を指します。

biomotor abilities間の相互依存

例えば、実際のトレーニングにおいて、ひとつのエクササイズが「筋力だけ」を養成するということはほとんどないと言えます。様々なabilityの相互関係を示すものが以下の図となります。

biomotor abilities間の相互依存の例証

Tudor O. Bompa:スポーツトレーニング(魚住廣信, 訳), 326. メディカル葵出版, 2001.より

筋力とスピードがほぼ同時に支配する陸上競技の跳躍や投てき種目、またバレーボールのスパイクなどは、その生産はパワーとよばれている。したがって、持久力と筋力の組み合わせ(約60秒間の種目)は、Florescuら(1969)がスピード持久力とよんでおり、いくつかのスポーツで非常にもてはやされる敏捷性はスピードと調整力の組み合わせになっている。

Tudor O. Bompa:スポーツトレーニング(魚住廣信, 訳), 326. メディカル葵出版, 2001.

つまり、競技によって、またそれを構成する一部の動作によって、組み合わせとその割合が違うと考えることが出来ます。先ほども書いたように、「筋力だけ」を養成すること、または「筋力だけ」を必要とする動作はないと言えます。

ハイパフォーマンスを獲得するために

2つの要因について

ハイパフォーマンスを獲得するためのbiomotor abilitiesの寄与は、2つの要因によって決められる。①そのスポーツの特異性を反映するbiomotor abilities間の割合、②そのスポーツや種目に関与する各abilityの開発レベル。したがって、そのスポーツにあった適切なトレーニング方法の選択がきわめて重大である。

Tudor O. Bompa:スポーツトレーニング(魚住廣信, 訳), 328. メディカル葵出版, 2001.

「筋力」「持久力」といったabilityと言っても、競技特異的な「筋力」「持久力」があるわけですから、もちろんそれを考慮することは前提です。その上で引用部分の①と②の2つの要因があるということです。

野球で考えてみる

例えば、野球の競技特性を考えると、試合中に長い距離を走り続けるという場面はありません。だからと言って、練習で長距離走が不要だとは一概に言えなくとも、それをするのであれば明確な目的(合目的的な)が必要になります。

また、バットを振るにしても、疲労によって明らかにスイングスピードが落ちているにも関わらず振り続けるとすれば、これはスイングスピードを向上させる練習にはなりません。ですから、これもやるのであれば、明確な目的(合目的的な)が必要になります。

何故特定のトレーニングが必要か?

テクニカルな要素や特定のスキルの独占的な使用は、正しいabilitiesの構成を導くが、ハイパフォーマンスに要求されるレベルに個々のabilitiyをたかめることが遅くなる。そのような開発の割合はbiomotor abilitiesが特定のエクササイズの使用によって開発される場合により高くなる(身体的準備を参照)。

Tudor O. Bompa:スポーツトレーニング(魚住廣信, 訳), 328. メディカル葵出版, 2001.

これはよく言われる、「競技練習をやっていれば、それに必要な筋力などが養成される」…かどうかという話について、ある視点を与えています。

「あるピッチャーが球速を上げたい」というケースにおいて、投げる練習だけをすることが、果たしてその選手にとってよりベターなのかということになります。

何をもってそう判断するかは別の課題としてありますが、仮に「下肢や体幹の筋力が不十分であり、それらの筋力を向上させることが球速を上げることに繋がる」と判断出来るのであれば、投げる練習だけ行うよりも、レジスタンストレーニングなどで養成する方が、効率的であり効果的であるかも知れません。

この場合、色々なケースがあり、色々な考え方はありますが、中途半端な重量で不安定なsurfaceの上でスクワットを行うとすると、ある種のバランストレーニングなのか、下肢体幹の筋力トレーニングなのか、よくわからないということになるかも知れません。

これだと本当に、「それなら投げる練習の方が良い」というケースになり得ます。やはり、何のために、何を優先して、どのように行うのかということが大事になります。

トレーニングの効果について

例えば、下肢体幹の筋力を向上させる目的でスクワットを選択するとします。トレーニングの原則に従って、適切なフォームで実施することで、挙上重量は向上していくとします。

スクワットの挙上重量が向上することはトレーニングの効果ですし、筋力を向上させる目的で実施しているわけなので、挙上重量という明確な指標があり、それが向上しているのでまずはOKと言えると思います。

ただ(ここでの)本来の目的は、「球速を上げる」ことですから、スクワットの挙上重量がいくら向上しても、球速が上がらなければ目的は達成されていないことになります。

もちろん単純にスクワットをすれば球速が上がると考える指導者はそういないでしょうから、スクワットで得られた効果を、実際のピッチングに繋げるという、いわゆるトレーニング効果の転移という作業が必要ということになります。

(※レジスタンストレーニングの種目をスクワットに絞る必要はそもそもないのですが、ここでは話をシンプルにするために便宜的にその辺りは触れていません)

そのアイデアとして例えばファンクショナルトレーニングといった発想があると思います。形骸化したものをそのままするというのは、個別性を無視することになりますが、そういった発想自体は否定されるものではないと思います。

「スクワット」と「実際に投げる」だけを行き来すれば良いと考えることは、そうないにしても、もしスクワットの挙上重量が伸びているのに球速が上がっていないなら、それは投げる練習の問題だという思考だと、抜け落ちている部分があっても気づかないかも知れません。

個人的には、この辺りの発想や考え方の違いに齟齬が生じていることが多いように感じています。これもまたどこかで触れられたらと思っています。

今回の例では、「下肢や体幹の筋力が不十分であり、それらの筋力を向上させることが球速を上げることに繋がる」と判断したというストーリーですから、相応の測定と評価を行ったということになります。

それに基づいたプログラムデザインがあり、実際は臨機応変な対応はあると思いますが、実施した結果が実際のパフォーマンスにポジティブな影響を与えているかの再評価があるはずです。これが当たり前のようになされているのであれば、齟齬は生じにくいのかも知れません。

※特定の体力要素がそもそも低すぎるというケースだと、個別性云々以前の問題で、改善を図る必要があると思います。

例えば体幹トレーニング

「体幹トレーニング」という用語を分解してみると、「そもそも体幹とは」「体幹のどのような機能をトレーニングするのか」ということがわかりません。もちろん用語だけでわからなくて構わないのですが、実際に行う場合はそれが重要になります。

どの筋(群)か、どの関節か、どの方向の動きか、筋力、パワー、筋持久力、柔軟性、可動性、バランス…もっとこれらを細かく分解していくことも出来ますが(細かければ良いわけではないです)、結局は具体的な課題は何なのかがなければ、具体的な方法も出てきません。

思った通りに身体を動かすという視点

この話題については、また別の機会に取り上げたいと思いますが、例えば野球の動作を考えると、投げる、打つ、走る、ボールを捕るといった動作でも、状況に応じて様々なバリエーションが求められます。

スライディングを避けながら投げる、寝た状態から投げる、ジャンプしながら投げる、ジャンプしてボールを捕る、デッドボールになりそうなボールを避ける、塁間で挟まれた時のフェイント動作・守備側であればその対応…など様々な動作が要求されます。

ですから、競技練習、フィジカルトレーニングなどを通じて、状況に応じて身体を上手く動かす能力(より高く・より速く・より早く・より強く…などの能力も含む)を養成する必要があります。

最後に

「biomotor abilities間の相互依存の例証」の図に関して、完全なものとは言えないとしても、整理する上では十分に役に立つと思います。

【参考記事】

-トレーニング, 用語の定義, 考え方