(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が管理しています。

トレーニング 用語の定義 考え方

アフォーダンスから身体運動を考えてみる

はじめに

タイトルが大げさですが、身体運動を考える時、その身体だけを見ていては、わからないことも多いと思います。取り巻く環境や状況は身体運動に影響を及ぼします。今回はアフォーダンスの概要と、そこから(飛躍して)色々な話について書いてみたいと思います。

アフォーダンス

アフォーダンス(affordance)とは

アフォーダンス(affordance)は、J.J.Gibsonの造語です。これを簡単に説明するのは困難ですが、以下の著書から比較的わかりやすい説明があるので引用します。

英語の動詞(afford)は「与える、提供する」などを意味する。ギブソンの造語アフォーダンス(affordance)は、「環境が動物に提供するもの、用意したり備えたりするもの」であり、それはぼくらを取り囲んでいるところに潜んでいる意味である。ぼくら動物の行為の「リソース(資源)」になることである。動物の行為はアフォーダンスを利用することで可能になり、アフォーダンスを利用することで進化してきた。

佐々木正人:アフォーダンス入門, 72. 講談社学術文庫1863, 2008.

「陸地の表面がほぼ水平で、平坦で、十分な広がりをもっていて、その材質が堅いならば、その表面は(動物の身体を)支えることをアフォードする」、「我々は、それを土台、地面、あるいは床と呼ぶ。それは、その上に立つことができるものであり、四足動物や二足動物に直立姿勢をゆるす」。つまりぼくらが地面とよぶところにあるのは「土」や「岩」という名前がつけられているが、それらは動物にとっては身体を「支持する」、その上を「移動する」などのアフォーダンスであるというわけだ。

佐々木正人:アフォーダンス入門, 73. 講談社学術文庫1863, 2008.

言われてみればその通りという話ですが、例えがわかりやすいだけで、実際にそれを応用するとなるとまた別の話になります。アフォーダンスについて、別の著書の説明も参考にしてみます。

アフォーダンスとは人間を含めた動物の特性を考慮したとき、環境がどのような行為を実現させる条件を兼ね備えているかについて、環境を主役として表現するための言葉である。

樋口貴広, 他:知覚に根ざしたリハビリテーション, 12. 株式会社シービーアール, 2017.

この著書で強調しているのは、アフォーダンスと呼ばれる環境の性質のみで運動が決定されているわけではなく、身体運動の実現には、環境の持つ要素が動物の持つ要素と等しく重要であるということです。

身体運動のみに着目しても見えないことが多いわけですが、「環境が身体運動をさせている」といいう一方的なものではないと言えると思います。

実際、アフォーダンスの定義を概観すると、「動物との関係において規定される環境の特性」、あるいは「ある動物にとって、どのように行動できるか、どのように行動すべきかにかかわる環境の特性」など、動物との関係のなかで見い出される特性であると強調していることがわかる。

樋口貴広, 他:知覚に根ざしたリハビリテーション, 13. 株式会社シービーアール, 2017.

例えば人間と水

人間は水の上を歩くことは出来ないので、水は人間に対して歩行するアフォーダンスを持ちません(別の言い方では、水は歩行をアフォードしません)。しかし、深さによりますが、水は泳ぐアフォーダンスを持ちます。

人間は水の中で呼吸が出来ませんから、水は人間に対して呼吸作用をアフォードしません。ですから、水の中で居ようとすれば、息止め、シュノーケル、酸素ボンベ、潜水艦…などといった、行為や道具が必要になります。

生物を取り囲む環境を考える

様々な生物を考えた時に、その生物だけを見ても生態はわかりません。その生物を取り囲む環境を知ることによって、何に適応してそうなっているのかといったことが見えてくると言えます。

姿勢制御は環境も影響を及ぼす

例えば、同じ運動課題でも環境が違えば姿勢制御が変わる可能性があります。平均台を難なく歩けるとしても、その高さが5m、10mとなれば、恐怖感によって動揺が大きくなるかも知れませんし、全く身動きがとれないかも知れません。

Anne Shumway-Cook et al:モーターコントロール 原著第4版(田中繁, 他監訳), 163. 医歯薬出版株式会社, 2013.より

誰が、どんな姿勢要求を内在する運動課題を、どのような環境で行うのかによって、姿勢制御が変わってくると言えると思います。

先に、『アフォーダンスと呼ばれる環境の性質のみで運動が決定されているわけではなく、身体運動の実現には、環境の持つ要素が動物の持つ要素と等しく重要』と書きましたが、姿勢制御の話ではあるものの、上の図は運動課題も挙げています(この文脈はあくまでこちらが作ったものです)。

環境を道具や他人を含めて考えてみる

杖の使い方

杖は歩行を助けるための道具ですが、その目的でしか使えないわけではなく、例えば、手の届かない範囲にある靴を手前に持ってくる時に使うことも出来ます。この場合は、杖ではなく上肢の延長として使用しているという視点もあります。

「本来の使用目的」があるとは言っても、道具の使い方はそれ以外にもたくさん考えられます。道具も(外部)環境と言えますから、「本来の使用目的」に捕らわれると、アフォーダンスを上手く利用することが出来ないかも知れません。

トレーニングの道具も工夫次第で活用方法が広がることもありますし、その道具がなくても他のもので代用出来ることもあります。

階段昇降の方法

例えば、階段は立って上る・下りる道具として使われていることがほとんどですが、座って上る・下りるでも、四つ這いで上る・下りるでも、階を移動するという目的から言えば、どれでも達成出来ます。もちろんそこには、社会的な面も含めて考える必要があるわけですが。

こういった話は、階段で座って休憩する、公園のベンチで寝る、そういった場面はよく目にすることを考えると、実際はそれほど特別な話ではありません。

バリアアリー?

「バリアフリー」ならぬ「バリアアリー」という言葉は聞いたことがあるかも知れませんが、意図的にバリアを配置し、それを克服することで身体機能や意欲の維持・向上を図ろうとするものです。

ケースバイケースではありますが、バリアフリーでは期待出来ない身体機能や動作能力の向上が図れる可能性があります。

階段とエレベーターのどちらも設置していれば、容易に階段昇降が可能でも、エレベーターを使用するということは、よくあることだと思います。

お散歩理学療法士?

いわゆる屋外歩行練習を指して、「お散歩しているだけ」という揶揄があります。特に課題がなく屋外歩行が自立しているようなケースであれば、気分転換の散歩がメインかも知れません(良い悪いという話ではなく)。

しかし、屋外歩行が何らかの理由で自立に至っていないのであれば、屋外歩行自体は意味があるはずです(必要で患者さんが望んでいるなどの条件はあるにしろ)。

例えば、屋内歩行は自立しているが、屋外歩行は自立していないとすれば、その差異は何なのかと考えると、環境の違いが挙がると思います。

屋外歩行が自立するために、具体的な課題を理学療法士が考えているのであれば、「お散歩しているだけ」にはならないでしょう。ケースによっては、患者さんがお散歩気分で構わないわけですが。

他人も(外部)環境

歩行介助を行う際に、前方から介助するのと、側方や後方から介助するのでば、物理的な影響はもちろんのこと、患者さんからみると環境が違います。

前方に理学療法士が居て、「足をもっと前に出して下さい」と言っても、接触しないように理学療法士が配慮しているとしても、側方や後方に居るよりは、無意識にしろ、前に出しにくいかも知れません。

どこに理学療法士がいるのか、接触しているか否か、どれくらい離れているのか、患者さんがその理学療法士をどう思っているのか(信頼度など)…そういったことも患者さんの運動に影響を与えると思います。

環境設定の工夫

制限を減らす

例えば広くて整備されたグラウンドがあり、そこで鬼ごっこをするとなると、端以外は走る方向に制限はありません。逃げる側が鬼より速く持久力も同等かそれ以上であれば、鬼に捕まる可能性は低くなります。

逆であれば鬼が捕まえる可能性は高くなります。厳密に考えていくと切り返しの能力や、逃げる側の連携プレーなど、様々な要素が関係します。

制限を設ける・増やす

鬼ごっこを、広くて整備されたグラウンドを使用するとしても、白線で囲った中だけで行うというルールを設けることによって、捕まえやすさ・捕まりやすさが変化します。

※ルールだけでは環境は変わりませんが、それを設けることで身体運動に変化を起こせるというのは、個人的には面白いと思っています。見えない環境の変化という側面もあるように思います。

また、様々な障害物を設置することで、逃げるバリエーションが増えることもあれば、減ることもあります。例えば、高い台を設置することで、昇り降り出来る人、昇り降り出来ない人によって、その高い台の意味は違ってきます。

これは同じ環境であっても個が違えば、身体運動のバリエーションは変わってくるということです。高い台は昇り降りするだけでなく、身を隠す道具として使用することも出来るかも知れません。高い台は身を隠すことをアフォードするという言い方も出来ます。

トレーングに活用する

こういった環境の設定やルールの設定により、運動の自由度や難易度を変化させることが出来ます。サーキットトレーニングやフィールドトレーニングなどは、特にそれを考慮しやすいかも知れません。

最後に

誰が、いつ、どこで、何のために、何を、どのように、といった「5W1H」を考えることは、遊びにしろ、トレーニングにしろ、スポーツにしろ、重要なことだと思います。

「5W1H」には、「どこで」という環境が含まれています。「どこで」は、同義ではないものの、環境と言い換えることも出来ると思います。この環境についてアフォーダンスを取り上げながら書いてみました。

【参考文献】

Huffman JL et al:Does increased postural threat lead to more conscious control of posture? Gait Posture 30:528-532, 2009.

Stins JF et al:To freeze or not to freeze? Affective and cognitive perturbations have markedly different effects on postural control. Hum Mov Sci 30:190-202, 2011.

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