(リ)コンディショニングメモ

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トレーニング 指導関連 考え方

パワーリフティングの経験はトレーニング指導の邪魔になるか?

はじめに

「パワーリフティングの経験者は、その競技特性からエクササイズ指導にネガティブな影響を及ぼす可能性がある」といった話題をSNSで見かけたので、そのことについて少し考えてみました。

個人的な解釈ですが、『パワーリフティングにおける競技のフォームは、その競技特有のものであるが、パワーリフティングの選手以外にエクササイズ指導をする場合は、そのフォームは不適切となるケースが多い。パワーリフティング経験者はその経験から不適切な指導になる可能性がある』ということです。

「可能性がある」かと言えば、可能性はあるかも知れません。ただし、「可能性が高いか」と言えば、そうとは言えないと思います。この辺りは様々なケースを想定することが出来るので、少し絞って話を進めていきます。

パワーリフティングの位置づけ

トレーニング指導の仕事を続けている中で、パワーリフティングを始めたという人もいれば、もともとパワーリフティングをしていてトレーニング指導の仕事を始めたという人もいます。もちろん、どちらが良いかという話ではありません。

『パワーリフティング経験者はその経験から不適切な指導になる可能性がある』という意見は、前者と後者ではまた印象が違ってくるのかも知れません。

前者はもともとトレーニング指導を行っていたので、パワーリフティング以外のことにも目を向けることが出来る、後者はパワーリフティングからスタートしているので、パワーリフティングが中心となり、指導に偏りが生まれる…これは私の意見ではありませんが、こういった見方をされることもあるように思います。

指導者の「バックボーン」といった、わかるようなわからないような表現がありますが、後者のケースで言えば、バックボーンにパワーリフティングがあると見なされるかも知れません。

そうすると、「パワーリフティングの経験を指導に活かす→パワーリフティングの競技フォームをクライアントに当てはめる」…という、色々なことをすっ飛ばしたような解釈がなされることもあるのだろうと感じます。

パワーリフティングを通じて培うものは、競技フォームなのかというと、それは流石に雑な気がします。特に熱心に取り組んでいる人ほど勉強していますし、純粋に強くなりたいと思っていれば、様々な考え方や意見を参考にすることが多いでしょうから(取捨選択の難しさといった話は別)、視野が狭いかとは一概に言えません。

パワーリフティングにおける、ベンチプレス、スクワット、デッドリフトが、標準的なエクササイズフォームであると思っている人が居ないとは言えませんが、パワーリフティングの選手以外にもトレーニング指導をしていきたいと考えるような人に限れば、殆どいないと思います。

そもそも、パワーリフティングを本格的に行なっている人は、競技練習とトレーニングを分けて考えているでしょうし、競技のフォームや種目以外のエクササイズにも取り組んでいるケースは少なくないはずです。

また、少しのフォームの違いで挙上重量が変わることも多々ありますし、意図しない局所的なメカニカルストレスが怪我に繋がる可能性があるので、競技レベルが高くなるほど、フォームを調整する能力、俗に言う身体操作とか身体の使い方が上手い傾向にあると思います。

そうだとすれば、パワーリフティングで染み付いた固定されたフォームでしか、エクササイズが出来ないかと言えば、そうとは言えないはずです。また繰り返しになりますが、競技練習とトレーニングを分けて行っていれば、パワーリフティングのフォームしかやっていないわけではありません。

様々な選手の競技、練習やトレーニングを見学したり、動画で観たり、アドバイスを受けたりアドバイスをしたりと、トレーニング指導に必要な能力を伸ばす要素がたくさんあると思います。

その他、解剖学、運動学、生理学といった知識、長期的なトレーニング計画、栄養や休養の知識や知恵といったものも、パワーリフティングという競技を通じて、身についていくこともあるはずです。

結局は基礎と応用能力

NSCAのエッセンシャルという選択肢

トレーニング指導における基本的な知識は何かを明確にすることは難しいかも知れません。コミュニケーション能力だとか人間性といったものは、確かに重要ではあるものの、トレーニング指導に限った話ではなく、また曖昧な部分が大きいのでここでは割愛します。

トレーニング指導に必要な知識を、ある程度体系的に学べる本はいくつかあると思いますが、個人的にはNSCAのエッセンシャルがそのひとつだと思います。

例えばこの本の内容をある程度理解しているか否かでは、指導は大きく違ってくると思います。パワーリフティングという競技を通じて得られるものはたくさんあるであろうと書きましたが、トレーニング指導が出来るようになるためには、トレーニング指導の経験はもちろんのこと、基本的な知識は抑えておく必要があります。

「トレーニング指導関連の国家資格はないから、いくら民間資格を取得してもムダ」といった意見もありますが、第三者から認定されるということは、知っていると自称するよりも一定の信用を得やすいと思います。

それでも専門職としては基本レベルといったところですが、基本は簡単なことではなく、重要度が高いから基本であると考えると、それを最低限は抑えておくことは必要ですし、資格の取得はその証としては意味があると思います。

資格の取得に向けた勉強というのは、ある意味では強制力を働かせるという面もあるので、わかりやすい、興味のある部分だけ読むのではなく、時間をかけながらでも広く学ぶということに繋がると言えます。

※NSCAのエッセンシャルにある各領域は、あくまでも文脈上「この辺りが特に大事」ということであって、実際はもっと詳しく学ぶ必要が出てきますから、1冊で十分というわけではありません。

肩書きは意味がないか?

「肩書きなんて意味がない」とは言え、肩書きが判断材料にされるケースもあるわけですから、自分がそう思っていても、他人はそうではないのであれば、肩書きのひとつとなる資格を取得しておくことに越したことないとも言えます(もちろん、どのように活動していくかによります)。

資格取得が目的でないのはその通りで、学ぶ過程もそうですし、仮に合格ラインが正答率70%以上だとすると、30%間違っても試験は合格するわけですから、あくまで言葉遊びの範疇ですが、持っている知識の30%が間違っている状態で指導している可能性があります。ですから、学び続ける、アップデートを続けることは、必要な作業と言えます。

応用能力について

基礎(知識)に関しては、ここではNSCAのエッセンシャルを挙げました(繰り返しますが十分というわけではありません)。では応用に関しては何かということですが、個人的には応用の本というものはないと思っています。

応用というのはあくまでも実践の中にあり、その中で試行錯誤して考え続けることで培われていくものが知恵であると思います。「教科書的な指導」という揶揄がありますが、教科書の中の内容(知識)をクライアントに当てはめるのではなく、クライアントのために知識を活かすことです。

パワーリフティングの経験をクライアントに当てはめて考えるのではなく、そこで培ったものをクライアントのために活かすということになります。そのように考えると、パワーリフティングの経験が良いか悪いかの話ではないと言えます。

トレーニングの原則を考える

トレーニングの原則を覚えていることと、それを考慮して指導することは別だと感じます。文字だけ覚えても仕方ないので、実際の指導でその原則を考慮しているのかを振り返る必要があります。

「個別性の原則」を考えると、エクササイズのフォームも目的とクライアントによって変わります。正しいフォーム、間違ったフォームがあるわけではなく、そのケースにおいて適切か、よりベターかどうかということになります。

パワーリフティングの経験者であっても、個別性の原則を考慮すれば、パワーリフティングの競技フォームをクライアントに当てはめるようなことにはならないと思います。それを「気づかない部分で」「無意識的に」ネガティブな影響を与え得るといった曖昧な指摘になるとすれば、収拾がつきません。

そのような論法であるならば、特定の競技のトレーニング指導の経験が、他の競技のトレーニング指導の際に「気づかない部分で」ネガティブな影響を与えるかも知れないといった、発展性のない水掛け論に陥る気がします。

最後に

パワーリフティングが話題になったので題材として取り上げましたが、他でも同じことが言えると思います。経験があるから良い・悪いというのは短絡的であり、どのような経験であってもその活かし方はそれぞれです。

パワーリフティングの経験から得られることはあると思いますが、パワーリフティングの経験がないことによって得られることがあるというのは違和感があります。

パワーリフティングの経験がないということはそれに費やす時間や労力を別に費やすことが出来るので、別の経験を通じて得られるものがあるということです。

不幸な経験は出来ればない方が良いですが、個人が真剣に取り組んできた経験がネガティブな影響を及ぼし得るとか、そのような経験はない方が良いといった意見は、個人の意見としては否定しませんが、それが普遍性があるような表現で他人を落とすような論調は如何なものかと思います。

それぞれの経験を通じて得られるものがあるわけですから、それを時に共有して発展的な方向に向かう方が、専門性の発展、クライアントの利益に繋がるのではないかと考えています。

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