(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

指導関連 考え方

#24 科学的根拠で説得することは指導になるか?

2018/01/19

「出来ないのは正しい知識がないからだ」と判断すると、「正しい知識を与えれば出来るようになる」と考えるのは自然です。しかし、「知っていることと、出来ることは違う」という言葉があるように、必ずしも知識があれば出来るわけではありません。

もちろんそれが知識が不要だという意味ではないですが、水泳に例えると、バタフライのストロークやキックの型、それらのタイミングを本やビデオで確認したとしても、実際にそれですぐに泳げるかと言えば難しいと思います。

しかし、ある程度泳げるレベルにある人が、本やビデオで確認した時に、「しっくりこない原因はこれか!」と気づいた後に泳ぐと、今までよりも上手く泳げるというケースもあると思います。

このように考えると、知識と技術の関係が見えてくるかも知れませんね。どちらが重要という話ではなく、知識があっても体現する技術がなければ上手くいかないし、技術があっても使いどころがわからなければ上手くいきません。

さて、少し話を変えますが、NSCAのエッセンシャルに書いてあることで、個人的に印象に残っている文章があります。

摂食障害に陥っている人に対して、単に栄養学的な情報を与えても改善されない。摂食障害の人は、多くの場合はすでに食品の栄養含有量、消化、吸収に関して詳しく知っている。たとえば、筆者の知人の過食と闘っていた若い女性は、当時運動科学者になるための勉強をしており、クレブス回路を暗記していた。しかしその知識をもってしても彼女は脂肪を摂ることができず、とてもやせているにもかかわらず太っていないことを受け入れられなかった。

Thomas R.Baechle,Roger W.Earle編 金久博昭 日本語総監修 岡田純一 監修:ストレングストレーニング&コンディショニング第3版,ブックハウスHD,258-259,2010.

この例では、最初の話とは異なりますが、「正しい(とされる)知識」をもってしても、解決しないことがあるということです。摂食障害だと医療の領域になりますが、「正しい(とされる)知識」を与えて説得しようとしても上手くいかないケースというのは、運動指導の場面でもあると思います。

「科学的根拠がある」ということを前面に押し出しても、対象者がそれに納得して行動しなければ、いくら科学的根拠があるとしても、上手くいきません。言い換えれば対象者が適切に行動するならば、その最初のきっかけは科学的根拠でなくても良いと言えます。

対象者によっては、「科学的根拠がある」ことを説明することで納得されることもあります。結局のところ、実際に行動(トレーニングや練習など)に移ってもらえるようにアプローチを工夫する必要があります。

対象者を説得する材料にする必要はなく(納得されるなら良いですが)、科学的根拠は専門家の中にあればよいとも言えるかも知れません。実際は科学的根拠をごく一般的な言葉で説明し納得されることも多いと思いますが、一方的に説得するだけにならないよう気をつける必要があると思います。

「私の言う通りにしないから上手く出来ないんだ」と言っても、結局は上手くいくように導けていない側の責任と言えるかも知れません。それも含めて専門能力だと考えると、指導者側の能力不足ということになります。

こういうことは専門教育としてあまり学ばない気がするので、それぞれの人柄に依存している部分は大きいのかも知れません。簡単な話ではないですが、これも「(科学的根拠を)知っていることと、出来ること(上手く導けること)は違う」ということだと考えています。

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