(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

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#27 運動イメージと実際の身体能力の認識誤差について

2018/01/09

イメージと実際との乖離

イメージ通りに出来ない

子供の運動会で張り切って転倒する、怪我をするといった経験や、ある運動が出来ると思っていても、実際にやってみるとイメージ通りに出来なかったといった経験をしたことのある人は多いかも知れません。

昔は出来たから

「昔は出来たから」という記憶がその要因のひとつと考えられますが、昔出来たからと言っても今出来るとは限らないということは、当たり前のことのようにも思いますが、まだまだ出来ると思いたいという願望もあるかも知れません。

手続き記憶と運動スキル

何度も過去に繰り返し習得した運動スキルは、長期記憶の手続き記憶に分類され、よく例に挙げられるように、「自転車の乗り方や泳ぎ方は身体が覚えている」という状態なります。

そうは言っても、長く自転車に乗っていなかったり、泳いでいなければ、よく経験していた時期と比較すると運動スキルは低下していることもあると思います。もちろん体力要素の変化など、様々な要因が考えられます。

年齢による違いはあるか?

年齢と自己評価

Robinovitchらは、高齢者と若年者に対して、足部を動かさずに出来るだけ前方へリーチする課題を設定しました。安定性限界までの予測と実際のパフォーマンスでは、若年者は自身を過小評価する傾向があったのに対し、虚弱高齢者では反対に過大評価する傾向がありました。

自己認識と転倒

平野らは、室内歩行が自立しているデイサービス利用高齢者を対象に、運動能力に関する自己認識の程度と転倒の関連について調べました。自己認識が不適切であった群は、適切であった群と比較して、転倒経験者の割合が有意に多いという結果を示しました。

杉原らは、日常生活に支障のない健常高齢者を対象に、Functional Reach Testを用いて、予測値と実際の測定値から身体能力認識誤差を求めました。その後3ヵ月の転倒の有無を聞き取り調査し、6.5㎝の身体能力認識誤差を境に良好に転倒有無の判別が可能であったと報告しています。

mental chrnometryと転倒

山田らは、19~93歳までを対象に、20歩の歩行運動を運動イメージ時間(mental chronometry)と実際の運動の時間を比較しました。加齢に伴って運動イメージ時間は延長し、転倒経験のある高齢者ではさらに延長する傾向がありました。

身体能力誤差と転倒リスク

これらの研究からは、身体能力認識誤差が生じる要因については不明ですが、身体能力認識誤差が転倒などのリスクファクターになる可能性はあると言えそうです。しかし、高齢者であっても転倒恐怖感によって過小評価するとされる報告もあります。

運動会で怪我をする原因は?

先ほど紹介した研究は高齢者を対象にしたものであり、運動課題の強度や難易度は低く設定されています。ですから、運動会で張り切るような年齢は、それよりも若いことが多いでしょうから、そのまま当てはめることは出来ません。

運動強度や難易度を上げることで、若い年齢であっても身体認識誤差が生じる可能性はあるかも知れませんが、あくまで仮説になります。

怪我をする原因は様々

「運動会で張り切ったら怪我をした原因」は色々考えられます。ウォーミングアップが不十分だったかも知れませんし、気持ちははやるけども、身体がついてこなかった、つまり運動イメージと実際が乖離していることが原因かも知れません。

例えば後者であれば、長い期間その運動を行っておらず、ぶっつけ本番に近い状態であったため、自分がどれくらい動けるのかということが、正確に認識出来ていなかったからかも知れません。

昔動けていた頃と比べて、その運動を行わなくなった、体型が変わった、関連する体力の低下、(前述の要素も関係して)運動感覚が変わる、そういった違いが挙げられると思います。

「出来ると思っている能力」と「実際の能力」の乖離を解消するには、実際に動くことが必要になります。「運動会で張り切ったら怪我をした」ということを出来るだけ避けるには、本番までに適切な準備をしておく必要があります。

適切な準備は各体力要素の向上もそうですが、自身の身体能力をより正確に認識し、イメージ通りに動けるようになることも含まれています。「気持ちだけ先走って身体がついてこない」という事態を避けるためにも必要な過程だと思います。

認識誤差を減らす方法?

「現状の身体能力を認識する」という意味でも、様々な運動や体力トレーニングは有効だと思います。例えばレジスタンストレーニングで効果的に筋力やパワーを向上させるには、ある程度の負荷を扱うことになります。

ですから、「あれっ、こんなに筋力落ちてるの…」というように、「出来ると思っている能力」と「実際の能力」の乖離が解消されていくと考えられます。例えば、体力テストの種目にある、「反復横とび」を久しぶりに行って、散々な動きになるかも知れません(これは私の話です)。

そのように実際に運動をすることによって、自身の身体能力を過大評価することが少なくなっていくかも知れません。そうすると日常生活やスポーツにおいて「出来ると思ったけど転倒して怪我をした」というケースを減らすことが出来るかも知れません。

まとめ

「出来ると思っている能力」と「実際の能力」の乖離に気づくことにより、落ち込む人もいるかも知れませんが、その辺りは指導者の腕の見せ所と言えると思います。思った通りに身体を動かすという能力に目を向けると、体力の各要素を向上させる以外に、運動イメージと実際の運動の一致性というのは重要な要素と言えます。

【参考文献】

・杉原敏道 他:高齢者の身体能力認識と転倒について. 理学療法科学. 20(1):13-16, 2005.

・平野康之 他:デイサービス利用高齢者の運動能力に関する自己認識と転倒の関連について. 理学療法科学. 25(5):705-710, 2010.

・山田実 他:歩行運動イメージの加齢変化と転倒経験の関連. 総合リハ. 35(7):705-710, 2007.

・Robinovitch SN et al:Perception of postural limits in elderly nursing home and day care participants. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 54(3):B124-130, 1999.

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