(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

運動学 解剖学

#29 「骨盤矯正って何ですか?」

2018/01/08

「骨盤矯正します」

「骨盤矯正」「骨盤のゆがみを解消!」といったフレーズはよく目にします。そういったことを書いているチラシも時々ポストに入っています。まあ見慣れたフレーズになりましたね。

「あら、やってもらおうかしら」という人もいるでしょうし、「骨盤のゆがみってなんやねん?」とツッコむ人もいると思います。そしてそのフレーズを使用している人でも、「そういう整体セミナーを受けたから」という人もいれば、「適切な表現じゃないですけどね」という人もいるかも知れません。

骨盤を構成するもの

骨盤は寛骨(腸骨+坐骨+恥骨)と仙骨(+尾骨)で構成されています。「骨盤矯正」という言葉をそのまま捉えると、これらの構成にずれが生じているということになります。

恥骨結合は殆ど動かないと言われていますが、妊娠や出産、アスリートの反復性外傷などによって恥骨結合の機能不全が起こるとされています。こういったケースを解消することを「骨盤矯正」と謳っている人が対応するということかどうかは知りません。

恥骨結合は動くのか?

恥骨結合の動きに関して、成書『オーチスのキネシオロジー』から引用します。

多くの状況下において、恥骨結合における動きはごくわずかである。しかし、基本的な物理学に基づいて考えると、仙腸関節の運動軸が恥骨帯を通る横軸でなければ、恥骨結合の運動には一側の仙腸関節において拮抗した運動を伴うはずである。もし実際に寛骨矢状面の運動が恥骨体を通過するのであれば、片側の寛骨矢状面の運動は骨結合におけるわずかな捻じれを生み出すに過ぎない。

Carol A.Oatis:オーチスのキネシオロジー(山﨑敦他,監訳), 659. ラウンドフラット, 2012.

仙腸関節は動くのか?

仙腸関節は動くか動かないかという話が昔から議論されているようです。「わずかに動く」という表現もあれば、「殆ど動かない」という表現もありますし、「そのわずかが大きい」と考える人もいれば、「無視しても問題ないレベル」と考える人もいると思います。これは立場によっても違うことがあると思いますし、同じ職種でも違うように感じます。

仙腸関節の動き~オーチスのキネシオロジーより~

仙腸関節の動きに関する様々な研究から、いくつかの結論をまとめたものが先ほどの『オーチスのキネシオロジー』に書かれてありますので引用します。

・仙腸関節ではごくわずかな運動が生じる

・寛骨間の矢状面における仙骨の回旋は1~8°で、平均2~3°である

・寛骨間での仙骨の背側への並進運動は0.5~8mmで、平均2~3mmである

・仙腸関節で可能と報告されている運動の数にはかなりの幅があり、その要因としては年齢、性別、関節面の局所解剖学、関節構造の左右非対称性、靱帯性結合、関節退行変性の程度、そしてわずかの計測ミスがある

・外傷のない場合には、仙腸関節の最大の運動は若者、とくに若い妊婦でみられる

・仙腸関節の運動における生理学上、臨床上の重要性は、仙腸関節症候群を診ることの多い臨床家や産科医を除いで、ほとんど無視されていた

Carol A.Oatis:オーチスのキネシオロジー(山﨑敦他,監訳), 655. ラウンドフラット, 2012.

仙腸関節へのアプローチを「骨盤矯正」と表現している人もいるのかも知れません。徒手療法にも様々な学派(という表現が適切かどうかはわかりません)があります。骨盤矯正、仙腸関節のモビライゼーション自体が目的とはならないので、目的達成に必要なアプローチであれば良いのではと考えています。

骨盤のゆがみとは何を指すのか?

ゆがんでいるのか、そう見えるのか?

「骨盤のゆがみ」というのは、何を指しているのかはその表現を使う人によって違うように感じます。仙腸関節が動くと考えれば、仙骨に対して片側の腸骨が相対的に動くこともあると考えられますから、それが原因で左右のASISやPSISの高さが違うといったことにもなると言えます。

しかしながら、本当にそれが原因で高さが違うのかはわかりません。視線の高さや利き目で見ているかどうか、対象者の姿勢がどうか、骨盤以外の部分はどうかといったことも考慮する必要があります。

立位なら足部、膝、股関節のアライメントの左右差によっても、「骨盤がゆがんでいるように見える」かも知れません。「骨盤がゆがんでいるように見える」ことを、「骨盤のゆがみ」と表現しているケースもあるのでしょうか。

「O脚、X脚を治します」?

「O脚やX脚を矯正します」といった話も、変形性膝関節症なのであれば、整形外科医による手術でなければ矯正するのは難しいと思います。

しかし、例えば足部のアライメントによっても「O脚やX脚のように見える」こともあるので、「O脚やX脚のように見える」原因についてアプローチすれば、「O脚やX脚のように見えない」ようになるかも知れません。

詳しい話になるときりがありませんが、「骨盤矯正」「骨盤のゆがみ」というフレーズが何を指しているのか、そのフレーズの受け手によっても全然違ってくるのだろうと思います。

まとめ

メディアにしても商売にしても、インパクトを求めたり、流行りに便乗することがあるでしょうから、「骨盤矯正」に限らず、「ん?どういうこと?」というのは目にしますね。

ネーミングも問題があるかも知れませんが、「特に問題はないのに、問題があると指摘して、不安にさせて商売する」ということがあるとすれば、それはさすがに問題があるように感じます。

【参考文献】

Carol A.Oatis:オーチスのキネシオロジー(山﨑敦他,監訳), 659. ラウンドフラット, 2012.

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