(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

神経科学 指導関連 考え方

#32 厳しい指導者は何に厳しいのか?

2017/09/17

「◯◯は奥が深いから、すぐに出来るものではない。」「繰り返し練習する必要があります。継続性の原則です。」といったようなセリフは、間違っているとは思いませんが、「本当は今出来ること」なのに指導が不適切で出来ないのであれば、それらしい言い訳になってしまうと思います。

指導のスタイルというのはそれぞれあって然りだと思いますし、指導のスタイル自体に絶対的なものはないのかも知れません。結局のところは対象者が上手くいくようにサポート出来ているかということが重要だと思います。

しかしながら、対象者に対して労いの言葉をかけない、認める言葉がない、それを「現在のパフォーマンスが理想の形とはかけ離れているから」という理由なのであれば、そのような指導のスタイルについていける人は限られているようにも感じます。それについていけて、なおかつ素晴らしい成長を遂げるとすれば、対象者の才能と努力、周りのサポートがあったからかも知れません。

「厳しさ」というのは、人によってそれぞれ捉え方が違うと思いますが、「厳しい指導者」→「労わない、認めない指導者」→「妥協しない理想の高い指導者」→「一流の指導者」といったイメージであれば、個人的には違和感があります。対象者が上手くいくようにサポート出来ているかどうかであって、態度と声がデカいだけなのに一流の指導者を気取られても困る人も多いわけですね。

「その程度で認めるわけにはいかん」ということかも知れませんが、望ましい方向に進んでいるのに対象者がそれを認識出来ていなかったり、そのことに対する指導者のフィードバックがなければ、現状と目標との差異がわからない、どうすれば良いかわからないかも知れません。

長期的な目標を考えれば、現状とは大きく離れているでしょうけど、現状に見合った適切な課題の難易度設定があるわけで、その課題をクリアしていくことが、長期的な目標に近づくという観方が出来ます。そうだとすれば、その時々の課題をクリア出来ているかどうかというフィードバック、差異があるとすればその差異を埋めるための指導が必要になると思います。

指導者自身が課題の適切な難易度設定を考えていなければ、課題をクリアしたかどうかもわかりません。というよりも課題を設定していないのでクリアもなにもないのですが。そういった観点がなければ、前回の記事(#31 審判のような指導)に書いたような指導になるのかも知れません。

「リハビリでは褒めることが大事」ということがメディアでも話題になった時期がありました。その言葉だけを取り上げると、「褒められるとモチベーションが上がって、また次も頑張るから効果が上がる」と捉えても自然だと思います。褒められることが報酬となって、繰り返し練習することで学習を促進するといったことはあると思います。

元となった研究(Sugawara et al, 2012)は、トレーニング「後」のパフォーマンスを褒められた群では、他者を褒めた群、褒めなかった群と比較して、24時間後のパフォーマンスが高かったという結果となりました。このことは、トレーニング中ではなく、オフラインでの社会的報酬(外在的フィードバック)が運動スキルの改善に影響を及ぼす可能性を示しています。

【参考記事】#75 褒めることが運動スキルに影響を与える?

運動学習は様々な要素が統合されていくプロセスなので単純な話は出来ませんが、可能性のひとつとして練習後の声かけという外在的フィードバックの有無(内容もあるかも知れません)が、上達に影響を与えることが考えられます。とすれば、普段から労わない、認めない指導者は、オフラインでポジティブな影響を与え得るものを使用していないとも言えます。その役割を担う人が他にいれば違ってくるかも知れませんが。

この研究を基に「労うべき」「褒めるべき」と主張するつもりはありませんが、「労わない」「認めない」という指導が、結果に活きないポリシーレベルの話であれば、見直す価値はあるのではとは思います。しかしながら、人と人の関係というのは単純ではないので、「こうするべき」「これが正しい」とは言えませんし、そう思っているわけではありません。俗に言う相性というのもあると思います。

極端に言えば、結果が良ければそれで良いという考えもあると思いますが、「結果的に良かった事例」を挙げるだけでは、発展性はないようにも思います。それは「労わない、認めない指導者」であれ、「労う、認める指導者」であれ同じことだと考えています。前者であれ後者であれ(単純な分類は実際は困難です)サクセスストーリーのように語られることで、そうではないたくさんの事例が埋もれてしまうかも知れません。

「厳しい指導(者)」があるとして、「何に厳しいのか?」を考えることは時に必要だと思います。少なくとも対象者が出来ないことを指摘するだけ、上手くいかない原因を対象者に押し付けるのは、自分に甘い指導者だと考えています。

【参考文献】
・Sugawara SK et al:Social rewards enhance offline improvements in motor skill.PLoS One 7:e48174,2012.

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