(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

神経科学 考え方

#36 多様な報酬と専門家の好奇心の充足

2017/09/17

「報酬」は一般に、動物では餌や水、人ではお金を意味することが多いが、心理学、神経科学ではより広い意味で用いられる。報酬とは、生物にそれを求める行動を促し、生物がそれを得ればさらにそれを求める行動(オペラント行動)の確率を上げるように働き、さらにそれを得た生物は「快」を得ると考えられるものである。

苧阪直行 編:報酬を期待する脳,59.新曜社,2014.

何かを手に入れたい、何かをしたいといった意欲は「報酬」が動機づけになります。報酬といっても生命維持に必要な報酬(ホメオスタシス性)や、生命維持には直接関係のない報酬(非ホメオスタシス性)があります。

前者は食べ物や飲みものなどがそれにあたります。食べ物や飲み物ではないが、それに結びつくことも含めることが出来ます。また、嫌悪刺激を避けるということも、安全の確保という意味では、生命維持に必要な報酬に含まれるという考えもあります。

後者は人と協力する、競争する、称賛を受ける、音楽を聴くといった内発的な報酬がそれにあたります。社会を考えればそれも生命維持に必要な報酬という観方も出来るかも知れません。

報酬は多様であるということですが、学習行動を促進する上でも報酬は重要な要素となります。報酬を目指す学習は強化学習(reinforcement learning)と呼ばれています。

直接生命維持に関係ないことであっても、熱心に取り組むといった行動はサルにもみられるようです。エサという報酬を与えなくてもパズルに熱中したり(Harlow, 1950)、1匹にされたサルが他のサルを見るためにエサを得ることと同じくらい熱心にレバーを押した(Andrews et al, 1993)といった実験があります。

「それが何かの役に立つのか?」ということを問う必要性があるケースもあるとは思いますが、熱心に取り組むことが出来るということは、学習の観点から考えても、そのような内発的な動機づけがなされていることは重要だと言えると思います。

「好きこそものの上手なれ」ということわざがありますが、内発的な動機が学習を促進するということを表しているように思います。「興味がある」「面白い」「楽しい」「やりがいがある」…そういった動機を、必ずしも理屈で考える必要はないと思います。

専門家という立場を考えれば、勉強をする、技術を磨くといったことは、「専門家として当然のこと」「対象者のため」と言えばそうだと思いますが、もっとシンプルな動機というのがあるのかも知れません。

そもそも専門家というのは、見方によっては偏りがあるわけですから、その偏りを正当化しようとするのは無理があるのかも知れません。飽きもせずに何かを追及し続けるというのは、変わっている人です。

しかしながら、対象者の役に立たなければ仕事になりませんし、対象者が良い方向に進むことを喜べることは重要だと思います。言い換えれば、それが報酬になるということです。残念ながら上手くいかないとしても、その経験を次に活かしたいという未来の報酬に目を向けることも重要だと思います。

利己的なことと利他的なことを分けることは困難なようにも思えますが、少なくともいわゆる好奇心の充足といった報酬だけでなく、対象者の役に立つこと(立ちたいと考えること)を報酬とすること、どちらも必要だと考えています。

【参考文献】

・苧阪直行 編:報酬を期待する脳.新曜社,2014.

・Andrews MW et al:Live-social-video reward maintains joystick task performance in bonnet macaques.Percept Mot Skills 77:755-763,1993.

・Harlow HF:Learning and satiation of respnse in intrinsically motivated complex puzzle performance by monkeys.J Comp Physiol Psychol 43:289-294,1950.

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