(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

神経科学 運動制御

#41 道具の身体化・知覚の延長について

2017/10/02

道具は身体の一部?

「道具は身体の一部だ」といった比喩は、色々なケースで用いられます。スポーツで言えば、例えば野球のバットやグローブ、テニスのラケットといった道具を身体の一部として扱うといったように。

手で道具を操作することを考えると、手と道具の関係だけではなく、環境の中で如何にして有効に操作するかということが重要になります。バットをただ振れば良いわけではなく、ボールに当てる(どのような打球をどの方向に飛ばすのかを含め)ことが重要ですから、バットとボールの位置関係を知る必要があります。

そのためには、体性感覚と視覚情報を統合する必要があります。手で打つわけではなくバットで打つわけですから、バットという道具を含めた統合がなされると考えることが出来ると思います。

Irikiらの実験

Irikiらは、二ホンザルが長さ30cmの熊手のような道具を使って、離れたところにあるエサを取る、また実験者が左右に動かしたエサを道具で追いかける際の、脳の活動を調べる実験を行いました(Iriki et al, 1996)。

使用する手と対側の頭頂間溝前壁部から記録されたニューロンは、指と手掌の皮膚の接触刺激に反応する体性感覚受容野を持っており、サルが道具を持っていない時に物体がその触覚受容野に近づくと強い視覚応答がみられました。サルが手の位置を変えるとそれに伴って視覚受容野は移動しました。

約5分間道具を使用した後は、道具の先端に近づいた時にもニューロンの活動がみられました。つまり、視覚受容野は手の周辺から道具の先端まで拡大しました。

道具の使用を止めた1~5分後には、その延長はみられなくなったということです。つまり、道具を使用するという意図(エサを引き寄せる)によって、視覚受容野の変化が引き起こされたと考えられます。このような結果から、使用した道具(熊手のようなもの)が、手や前腕の延長になったと解釈することが出来ます。

【受容野とは】

受容器に直接刺激を加えなくても、ある空間的な広がり(例えば、ある広さの皮膚面や、視野の中のある広がり)のどこに刺激を加えても受容器が同じように反応する場合、その空間的な広がりを受容野 receptive fieldとよぶ。

小澤瀞司, 福田康一郎:標準生理学 第8, 216. 医学書院, 2014.

普段の生活では?

これは例えば、野球のバッターがバットにボールに届く範囲がわかるということと、共通している点があると言えると思います。このような知覚の延長は、車の運転時の車幅感覚など色々なケースで起こっていると考えられます。

車の運転で言えば、路面の感覚、どのタイヤで凹凸物を踏んだか、そういったことがわかるのも知覚の延長と言えます。義足歩行時の足底知覚もまさしく知覚の延長、義足がまさに身体の一部となるという道具の身体化が起こっていると言えます。

ペンで字を書く際に、紙のテクスチャー(材質の感覚、質感)がわかるというのもその一例です。ペンの先には感覚受容器はないにも関わらず、それがわかるということは、ペンが身体化していると言えます。

また、道具ではありませんが、患者さんの身体に触れる際に、触れている部位より遠位であっても、どのような状態にあるのかわかるというのも同じようなことかも知れません(他動的な関節運動やハンドリングなど)。

まとめ

「道具を身体の一部にする」「感覚を研ぎ澄まして触れる」というと、何だか怪しそうにも感じられますが、道具の身体化、知覚の延長といった観点で考えると、人間の持つ能力のひとつと考えることも出来ると思います。アスリートが道具を大切にするというのも、こういったことも関係しているかも知れません。

【参考文献】

・Iriki A et al:Coding of modified body schema during tool use by macaque postcentral neurones. Neuroreport 7:2325-2330, 1996.

・Iriki A et al:Self-images in the video monitor coded by monkey intraparietal neurons.Neurosci. Res 40:163-173, 2001.

・Farne A et al:Dynamic size-change of hand peripersonal space following tool use. Neuroreport 11:1645-1649, 2000.

・Maravita A et al:Tools for the body (schema). Trends Cogn Sci. 8:79-86, 2004.

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