(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

トレーニング 指導関連 考え方

#55 レジスタンストレーニングは役に立つの?

2017/10/12

白か黒かという発想について

レジスタンストレーニングに限らず、何らかの手段に対して、「良いor悪い」、「効果ありor効果なし」といった価値づけをすることがあります。そもそも目的なしに手段を価値づけするのは、多くの場合はナンセンスだと思います。

例えば、その手段が明らかに身体に害を及ぼすリスクが高いといった場合には、目的云々以前の話になるかも知れませんが、レジスタンストレーニングといった手段になると、さまざまな変数を設定することが出来るので、明らかに適応外というケース(例えば多発性硬化症の増悪期)でなければ、身体に害を及ぼすリスクを低くすることが出来ます。

一方で、さまざまな変数を設定することが出来るが故に、「適切にやれば効果的」という表現も、受け入れやすいようにも思います。「適切にやれば」「正しい方法でやれば」という枕詞は、マジックワードでもあるので、思考停止に陥りやすいようにも思えます。

「適切にやったけど、上手くいかない」ことが文脈によってはないとは言えないかも知れませんが、「適切にやった」というのは目的を達成する方法だと考えれば、「適切にやったけど、上手くいかない」というのは、矛盾していると考えることも出来ます。

目的と個々の状態や状況を考えた時に、「そもそもレジスタンストレーニングを行うことは、よりベターかどうか?」ということ、「そもそもレジスタンストレーニングを適切に行なっているか?」という観点があると思います。

筋力・パワーを向上させるにはレジスタンストレーニングしかない?

レジスタンストレーニングによる効果は、筋力やパワーといった体力要素の維持・向上だけではありませんが、「筋力やパワーを向上させるためには、レジスタンストレーニングしかない」と考えるのは、少し違和感があります。

もちろん、効率的、効果的に筋力やパワーを向上させるには、レジスタンストレーニングが選択肢として挙がるのは不自然ではないと思います。しかしながら、「何のための筋力、パワーなのか」ということは、考える必要があると思います。

「筋力、パワー不足」を解消するために、レジスタンストレーニングを導入すべきという論理は、間違っているとは思いませんが、「筋力、パワー不足」としている根拠が、「レジスタンストレーニングの挙上重量」のみであれば、その種目における筋力、パワーということになります。

「イチロー選手が筋トレを否定した」ということが、一時期話題になりましたが(参考記事:【雑感廻り】#30 イチロー選手と筋トレの話題について)、イチロー選手は筋力やパワーは必要ないと主張しているわけではないと思います。年齢による衰えはあるかも知れませんが、速いボールを投げられる、速く走れる、強い打球を打てるイチロー選手に、筋トレ(レジスタンストレーニング)をしないことを挙げて「パワー不足」と指摘するのは、短絡的だと思います。

イチロー選手の場合は、「レジスタンストレーニング以外の方法」で、野球における筋力やパワーを養成してきたと言えます。それが初動負荷トレーニングだと言うつもりはないですが。

かなり極端に言えば、例えばどこかしらの筋力が向上するなら、その手段を「筋力トレーニング」と言えるかも知れません。しかしそれは、共通認識ではありませんから、専門家が個人的な定義を共通認識であるかのように語ると、齟齬が生じる可能性は高くなります。

体重を増やすなら

例えば、柔道において階級があるのは、体重の違いはパフォーマンスにおいて大きな要素のひとつだからと言えます。いくら技術レベルが高いとしても、体重50kgの選手が、100kgの選手に勝つのは至難のわざです。特に高いレベルとなると、その傾向は顕著です。

体重50kgのラグビー選手が100kgの選手とまともにぶつかると、当たり負けするのは見えています。体重50kgの野球選手がホームランを打つのは、簡単なことではありません。技術の要素はどんなスポーツでも重要なことは言うまでもありませんが、体重という要素もパフォーマンスにおいて重要な要素のひとつです。

しかし、体重が重い方が有利だとして、体重を増やすとしても、どのように増やすのかということがあります。5kg増やすにしても、主に体脂肪で増やすのか、主に筋肥大によって増やすのかでは、大きく違ってきます。

ただ5kg増やすのか、筋力やパワーを向上させつつ5kg増やすのか、実際はこんな単純な話ではないにしても、大きな違いです。

もちろん、体重はパフォーマンスに関する要素のひとつであって、体重を増やせば良いとか、体重が重い方が良いという話ではなく、個々の潜在能力や特性を最大限に活かす上で、今よりも体重を増やすことがよりベターなのかということは考える必要はあると思います。

また、レジスタンストレーニングに取り組む中で結果的に体重が増えることもあると思います。体重が増えることが、良い悪いという話ではなく、総合的なパフォーマンスで考える必要があります。

野球やサッカーは体重別ではないですから、筋力、パワー、持久力、柔軟性などが高いレベルなのであれば、体重はある程度あった方が有利に働くこともあると思います。

しかし、体重を増やすことが目的となると、新たな課題に取り組むということになりますし、そのことで今までのリズムが変わったり、優先順位が変わることで、ネガティブな影響も考えられます。

そのことでその選手の特長が活かせなくなるとすれば本末転倒なので、一律同じようなパフォーマンスを目指すのではなく、選手それぞれに合った、選手の潜在能力や特性を考慮した上での目的(目標)と課題を設定する必要があると思います。

両立可能なことや相乗効果が期待出来ることもあれば、その反対になり得ることもありますから、その辺りの見極めが重要になると思います。

予備能力の向上という観点

野球で「ミスショットでもスタンドインしたい」とすれば、今以上のパワー、体重の増加は必要かも知れません。バットも変えた方が良いかも知れません。体重の増加を考えると、体脂肪を上乗せするよりも、骨格筋の肥大を図る方が、パフォーマンスの伸びしろとしては大きいと言えます。

最大筋力や最大パワーの絶対値が小さいより大きい方が、最大下での出力が同じであっても反復出来る回数は多くなりますから(厳密には条件によって言い切れないですが)、筋力やパワーの要素が比較的重要なパフォーマンスであるほど、一定のレベルを長く維持することに有利であると言えます。

また、例えばMAX150km/hのボールを投げるピッチャーと、MAX140kmのボールを投げるピッチャーでは、例え調子が良くない日であっても、前者の方が後者よりも速いボールを投げられる可能性が高いと言えます。

もちろん、レジスタンストレーニングで養成される筋力やパワーは、そのレジスタンストレーニングの種目を行う上での筋力やパワーが主に養成されるわけですから、必ずしもレジスタンストレーニングをすれば、スポーツを行う上での予備能力の向上に直結するというわけではないと思います(パワーリフティングやウェイトリフティングは直接的な貢献度は高いと言えます)。

ですから、やはりスポーツそのものの練習は欠かすことは出来ないと思います。レジスタンストレーニングを行なうのであれば、どのようにスポーツパフォーマンスの向上に繋げていくかという部分が、重要になります。

まとめ

私も含めいわゆる何らかの専門家というのは、視野が狭くなりがちですが、「スポーツを楽しむ」という観点だと、色々な選手が、特徴は違えどそれぞれ一流のパフォーマンスを発揮するという多様性を楽しむという部分はあると思います。

結局のところ、誰がどのようなパフォーマンスを目指しているのかということであり、その目標を達成するための具体的な手段として、レジスタンストレーニングなどが挙げられるわけですが、メディアなどでは、そういった部分が欠落したまま、手段について「良いor悪い」、「効果ありor効果なし」といった論調になることが多いですから、それでは何も進まないと感じます。

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