(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

運動制御 生理学 トレーニング

#68 「固有感覚」と「運動感覚」について

2018/01/07

「固有感覚」とは?

■「カンデル神経科学」より

固有感覚(proprioception)は自分自身(propriusはラテン語で「自分自身の」を意味する)に関する感覚である。骨格筋や関節包、皮膚に存在する感覚受容器は自分の身体、特に四肢と頭部に関する姿勢や動きの意識的な認識を可能にしている。

われわれは固有受容器(proprioceptor)らの感覚フィードバックなしでも身体を動かすことができるが、そのような動きはしばしば不器用で、調整が不完全であるため、複雑な課題に十分に適応できない。特に視覚情報に頼ることができない場合、この傾向は著しい。

Kandel E:カンデル神経科学(金澤一郎, 監訳), p468, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014.

固有感覚と深部感覚

■岩村先生の「タッチ」より

固有感覚受容器は筋、腱、関節および前庭にあって、身体の運動や位置についての情報を提供します。そしてこれらの受容器の活動によって起こる感覚が、固有受容器であるとしたのです。皮膚も身体の動きによって刺激されますが、Sherringtonは皮膚からの入力は固有感覚から除外しましたので、固有感覚と深部感覚とはほぼ同義であるといえます。

しかし、深部感覚とは、表在(皮膚)感覚に対置する臨床的あるいは解剖学的な語です。主観的な体験としての深部感覚というものは定義しにくい(あるいは存在しない)のです。次節で詳しく述べるように、主として深部受容器が貢献する感覚は運動感覚であります。

岩村吉晃:タッチ, p31, 医学書院, 2001.

■固有受容器の存在場所と機能

固有(感覚)受容器は、筋(筋紡錘)、腱(ゴルジ腱器官)、関節(パチニ小体、ルフィニ終末、ゴルジ終末、自由神経終末など)、前庭(半規管、耳石器)にあります。これらが、身体の運動、位置、力、重さなど、「自分自身に関する感覚」を提供します。

関節の位置感覚について、筋紡錘と関節受容器のどちらが関与するかというと、関節受容器は関与せず筋紡錘が関与するようです。筋紡錘の他には皮膚受容器も関与するようです。

上記の引用では、深部受容器となっておりますが、ここでは固有受容器と同義として扱わせていただきます。文中の『主として深部受容器が貢献する感覚は運動感覚』にある「深部受容器」の部分を固有受容器に置き換えます。『主として固有受容器が貢献する感覚は運動感覚』であるとして、進めていきます。

■運動感覚(kinesthesia)とは

①四肢の動きの感覚(sense of movement)

②四肢の位置の感覚(position sense)

③筋の力の感覚(sense of muscular)

④努力感(sense of effort)

⑤重さの感覚(sense of heaviness)

など

岩村吉晃:タッチ, p32, 医学書院, 2001. より抜粋

固有受容器は、これらの運動感覚に関与すると言えます。実際には運動感覚は他からの感覚情報などを統合して生成される複合的な感覚です。例えば、同じ重さで大きさが違うものを持ち上げる時、小さい方が重く感じるという錯覚が生まれるという現象があります。

固有受容器による感覚情報のみに依存するのであれば、そのような錯覚は生じないように思われますが、大きさの違いという視覚情報と予測によって、そのような錯覚が生じると考えられます。このあたりの研究は面白いものがたくさんありますが、ここでは割愛します。

固有受容器トレーニング?

■固有受容器トレーニングとは?

さて、固有受容器トレーニング(proprioception traning)と聞いて想像するトレーニングとはどんなものでしょうか。不安定なものの上でバランスをとるようなトレーニングを指していることもあります。そもそもバランスとはという話にもなるわけですが、ここでは割愛します。

今回の記事の中での話ですが、『主として固有受容器が貢献する感覚は運動感覚』としました。おさらいですが、運動感覚とは、①四肢の動きの感覚(sense of movement)、②四肢の位置の感覚(position sense)、③筋の力の感覚(sense of muscular)、④努力感(sense of effort)、⑤重さの感覚(sense of heaviness)などがあります。

■運動感覚を養う?

かなり極端ですが、このような運動感覚を養うということは、自身の姿勢や動きを正確に認識し(注意を向ければ)、自身の身体と環境の相互関係を正確に認識し(注意を向ければ)、適切なタイミングで適切な筋活動によって、思った通りに動く(自動化した運動も含む)ことと考えることも出来ます。強引ですが。

バランストレーニングをすればよい?

では、不安定なものの上でバランスをとるようなトレーニングで、上記のような運動感覚を養うということが出来るでしょうか。まずそう考える前に、目的があって、その目的を達成するための手段として適切かということになります。

実際の臨床では、「運動感覚を養うために、不安定なものの上でバランストレーニングをする」といった、ふわっとした理由で行うことはないと思います。例えば、片脚立位の時間が延長してくれば、何かが良くなったようにみえるので、成績が上がっているのであれば、その練習を行うことに意義があるように感じることもあるかも知れません。

しかしながら、それを行う目的と、対象者がどのようにして片脚立位をしているのかといった部分を考えていないと、歩行能力低下の要因を考えずに歩く練習をするといったことと同じように、「とりあえずやる」ことに終始することになりかねないと思います。

傷害予防と固有受容器トレーニング

傷害予防において、ストレッチング、固有受容器トレーニング、ストレングストレーニングの3つの介入による効果を調べた研究では(Lauersen JB et al, 2014)、ストレッチングには有意な効果が確認出来なかったものの、固有受容器トレーニング、ストレングストレーニングには傷害予防において効果が示唆されました。

この研究では特にストレングストレーニングが有意にスポーツ障害、オーバーユースによる傷害を有意に減らす可能性が示唆されました。

このように傷害予防として、固有受容器トレーニングなるものを行うといったこともあるようですが、結局は対象者の評価と、「どんな傷害を」「どのように予防するか」ということになると思います。

そうすると、「固有受容器トレーニングに分類されるトレーニングをする」といったことは、あくまでその結果であって、具体的なケースにおいては、「固有受容器トレーニングを行う・行わない」こと自体が目的にはなりません。

運動感覚を養うということで考えると(運動感覚を養うというのは、あくまで今回の便宜的なストーリー)、固有受容器トレーニングと呼ばれるものに限定されることではないでしょうし、そういったカテゴリー分けは、「臨床においては」さほど重要ではないのかも知れません。

まとめ

「体幹トレーニング」「ファンクショナルトレーニング」といった名称と同じように、名称だけが独り歩きして、それが有効か否かといった議論と同様に、「固有受容器トレーニング」が有効か否かといった話は建設的ではないように思います。「そもそもそれって?」という視点が必要であると考えています。

そもそも、「固有感覚とは?」「運動感覚とは?」「固有受容器トレーニングとは?」「バランスとは?」…そういったことを考えていくことが、重要だと個人的には感じています。

※今回の内容はまとめの部分を修飾するもので、個人的な解釈を含みます。

【参考文献】

岩村晃:タッチ. 医学書院, 2001.

小澤靜司, 福田康一郎:標準生理学 第8版. 医学書院, 2014.

Kandel E:カンデル神経科学(金澤一郎, 監訳). メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014.

Burgess PR et al:Signaling of kinesthetic information by peripheral sensory receptors. Annu Rev Neurosci 5:171-187,1982.

McCloskey DI:Kinesthetic sensibility. Physiol Rev 58:763-820, 1978.

Morioka S et al: The influence of size perception and internal modeling on the control process while lifting. J Physiol Anthropol 25(2):163-169, 2006.

Murray DJ et al:Charpentier (1891) on the size-weight illusion. Percept Psychophys. 61:1681-1685, 1999.

Lauersen JB et al:The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. Br J Sports Med 48(11):871-877, 2014.

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