(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

運動学習 歩行

#69 自然回復と代償動作について

2017/12/25

理学療法は治療か?

「理学療法は治療か?」という話題があります。「治療は医師が行うもの」である一方、理学療法の「療法」は「治療」「治療法」という意味もあります。診療報酬を請求しているとすると、医療行為と認められているということですから、少なくとも理学療法は医療行為であるとは言えると思います。

脳卒中の機能回復を例に

さて、例えば脳卒中を考えると、脳損傷によって意識障害、運動麻痺、感覚障害、高次脳機能障害といった、様々な障害をきたすことがあります。

直接損傷した部位にとどまらず、浮腫やペナンブラ(penumbra:血流量が低下しているものの壊死を免れている部位)による機能不全、機能解離(diaschisis:損傷部位と離れているがネットワークのある部位の機能不全)などがあります。

これら浮腫やペナンブラに対して、脳梗塞急性期の治療として、脳浮腫管理、血栓溶解療法、抗血小板療法などの治療があります。これは既に発症した脳梗塞による後遺症を出来る限り軽減する、再発予防といった転帰改善のために行われます。

機能の回復には、自然的な回復と治療・介入的に導かれる回復があります。

生物学との闘い

逆説的に聞こえるかもしれないが、リハビリテーションの仕事は「生物学(Biologia:生物に本来備わっている自然発生的な回復力)との闘い」である。治療方略は、できるだけ精密な運動機能回復を引き出すために、生物学的なメカニズムや運動ストラテジーに強力に働きかける試みであると言えるからだ。

実際、中枢神経系の損傷に対し、自然の力はあまり寛大とはいえない。自然発生的な運動機能回復は、往々にして大雑把なものにすぎない。大切なのは速やかな対応のみであるかのごとく、非特定的で選択の可能性が欠如し、個性や表現力が乏しい運動機能回復を見てみると、それが品質の劣るいくつかの運動に限られていることがわかる。危険が迫った時に、急いでそこから遠ざかることができるかもしれない程度である。

カルロ・ペルフェッティ:認知神経リハビリテーション入門(小池美納, 訳), p9, 協同医書出版社, 2016.

「代償動作は悪いことではない」と言うセリフは学生時代も今も時折見聞きします。確かに代償動作自体が良い悪いという話は出来ないと思います。しかしながら、「何らかの機能を別の機能が代償している(実際は全体的な協調性の話になると思いますが)」として、果たして何らかの機能は別の機能で代償されるしか選択肢がないのかという観点もあります。

本当は機能として残存している、機能回復の見込みがあるとしても、その機能を使わないような運動ストラテジーを遂行していると、学習性不使用が生じると考えられます。ですから、そういったことを考慮せずに、代償動作を選択することで、もしかしたら機能するものも機能しないようになるかも知れません。

先ほどの引用で、『生物学(Biologia:生物に本来備わっている自然発生的な回復力)との闘い』という表現がありましたが、介入せずとも動きやすい方法で何とか動けるようになる、例えば、代償動作を伴った跛行もその例と言えます。

「歩くという目的が達成されているのだから、跛行であっても問題ない」という意見もありますが、それは対象者がそう思っているのか、療法士がそう思っているのかでは、全然違ってくると思います。

「人に心配されたくないから、しっかり歩きたい」という患者さんもおられます。これは実用性で言えば、社会性ということになります。「しっかり歩く」というのは、今までと同じように歩く、標準歩行に含まれる歩行を指していることが多いと思います

「実用性を考える」ということは、養成校でも学ぶことですが、その実用性という観点で考えてみます。

実用性を考える

【実用性とは】

・安全性

・安定性

・速度性(遂行時間)

・耐久性

・社会性(社会的容認性)

・安楽性

※文献によって違いがあります

極端に言えば、実用的な歩行はいわゆる「正常(標準)歩行」と考えることも出来るかも知れません。それを前提とすると、標準的な歩行から逸脱することで、実用性は低下すると考えることも出来ます。

しかしながら、「正常(標準)歩行」といっても、平均をとった際にみられる特徴ですから、あくまで「平均」を「正常」「標準」と表現していると言えます。つまり「これが唯一正しい歩行だ」というわけではないということですね。

健常歩行には非常に幅広いバリエーションが生じる。このためPTとしての課題は必ずしも一般的な標準にこだわらずに個々の患者の病理を理解することと、その患者にとっての標準に戻すことである。

個々人がそれほどまでに多様で異なっているのであれば、何のためにそもそも一般的に標準とされている数値(標準値)を学んでおく必要があるのだろうか。それは標準値によって、歩行の機能的流れと物理的な前提条件を知ることに意味はあるからである。

さらに歩行の各瞬間における標準値、たとえば関節モーメント、角度、加速度と過重などを知ることができる。それらは観察による歩行分析を成功させるために決定的な要素である。

Kirsten Götz-Neumann:観察による歩行分析(月城慶一他, 訳), p8, 医学書院, 2005.

ということで、「これが唯一正しい歩き方だ」と言って、その歩行と現状の歩行との差異を減らすことを目標にすることは、実用性という観点から考えても、最適解とは言えないと思います。

「歩容を改善する」=「標準歩行に近づける」とは必ずしも言えないわけですが、標準歩行というモデルを知ることによって、その対象者にとってより実用性の高い歩行を見出すヒントになると考えられます。

運動機能回復は病的状態からの学習過程

「運動機能回復を病的状態からの学習過程とみなす」ものである。この視点に立つと、運動療法の対象は随意運動や反射によって賦活させることができる筋収縮や運動単位の活動ではなく、運動学習の基本にあるメカニズムであり、より高度で効率的な運動制御の達成が目指されなければならないということになる。

カルロ・ペルフェッティ:認知神経リハビリテーション入門(小池美納, 訳), p8, 協同医書出版社, 2016.

理学療法は治療かどうかという話は様々な意見があると思いますが、上記の内容を参考にすると、如何にして学習するか、何を教えていくかという視点は重要だと思います。そうすると、運動学習や運動制御に関する知識は必須ということになると思います。

Nudoらの研究が有名ですが、運動課題が脳の可塑的変化をもたらすということが、様々な研究で明らかにされています。自然回復のみが機能回復をもたらすわけではなく、学習や環境による中枢神経系の再組織化によっても、機能回復を図ることが出来る可能性があるということです。

また、今回は脳卒中を例に挙げましたが、運動器疾患であっても共通した課題というのはあると思います。

まとめ

どんなケースにおいても、必ず良くなるというわけではありません。しかしながら、より機能的な回復の可能性がある、すなわちより実用性の高い動作を学習する可能性があるにも関わらず、粗大な代償動作ありきになるとすれば学習性不使用をきたし、実用性の低い動作を学習することになると言えます。

実際には、脳卒中で言えば、損傷部位や大きさ、発症前のレベル、年齢など、様々な要因によって、機能回復の程度は大きく変わります。ですから、実用性を含め、様々なことを考慮して、折り合いをつけることが必要になります。

機能回復に拘って他がなおざりなることも、より機能的な回復の可能性があるにも関わらず、代償動作は悪いことではないとして、粗大な代償動作ありきで介入することもないように、状況に応じて最適解を選択出来ることが求められると思います。

理学療法は治療かどうかという話は様々な意見があると思いますが、少なくとも診療報酬を請求している医療行為を行う立場であれば、エビデンスに基づいた介入は必須と言えます。

実際の臨床では何か具体的なことを行うわけですから、技術もまた重要になります。技術に問題があると、知識としては正しいけど、やってることは違うといったことにもなりかねません。

可能性があるにも関わらず、その知見に無知であれば、可能性を見い出せませんし、技術に問題があれば上手くいきません。専門職側の問題で、潜在的にある可能性を引き出せていないかも知れないという視点は常に持っておいた方が良いと感じています。

【参考文献】

カルロ・ペルフェッティ:認知神経リハビリテーション入門(小池美納, 訳), 協同医書出版社, 2016.

日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 編:脳卒中治療ガイドライン2015, 協和企画, 2015.

森岡周:リハビリテーションのための脳・神経科学入門, 協同医書出版社, 2016.

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Kirsten Götz-Neumann:観察による歩行分析(月城慶一他, 訳), p8, 医学書院, 2005.

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