(リ)コンディショニングメモ

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神経科学 運動学習 運動制御

「運動イメージ」と「運動観察」について

2018/08/22

イメージトレーニング?

イメージトレーニング、メンタルプラクティス

「イメージトレーニング」「イメトレ」という言葉は一般的に使われているように思います。ことスポーツにおいても使われることも多いかも知れません。

今回のタイトルにある「運動イメージ」は、「イメージトレーニング」とイコールというよりも、イメージトレーニングに含まれるものと言えます。

学術的には、「イメージトレーニング」ではなく、「メンタルプラクティス(mental practice)」という用語が適切かと思います。これらに関連する用語は様々あります。「メンタルリハーサル(mental rehearsal)」という用語が使用されていることもあります。

回転盤追跡の実験~Rawlingsらによる実験~

古くは、例えば、回転盤追跡に関する学習の研究があります(Rawlings EI et al, 1972)。

この研究では、細い筆を回転盤に出来るだけ長く触れるという課題を設定し、①課題そのものを練習する群、②何もしない群、③成功するパフォーマンスをイメージする群、の3つに分けました。

保持テストでは、①と③は殆ど同じレベルのパフォーマンスの向上がみられ、②は殆どパフォーマンスは向上しなかったという結果となりました。つまり、実際に身体的な練習を行わずとも、パフォーマンスの向上が起こる可能性が示されたということです。

運動イメージとは

Decetyらによる運動イメージの定義

Motor imagery may be defined as a dynamic state during which representations of a given motor act are internally rehearsed in working memory without any overt motor output. 

Decety J et al:The neurophysiological basis of motor imagery. Behav Brain Res. 77:45, 1996.

「運動を伴わず、ワーキングメモリによって内部でリハーサルされる運動の表象である」と、ここでは定義しています。そうすると、未経験なものに対して、内部でリハーサルすることは困難であると考えられます。

運動経験の有無と運動イメージの効果~Mulderらによる実験~

例えば、運動の経験の有無によって、運動イメージによる効果に差が生じることを示した研究があります(Mulder T et al, 2004)。運動経験がないことによって、運動イメージの効果が得られない場合には、その運動を実際に経験する、もしくはその運動を観察する必要があると言えます。

一人称的イメージと三人称的イメージ

■一人称的イメージとは

一人称的イメージ(kinesthetic motor imagery:筋感覚的運動イメージ)とは、自己が運動を行っているようなイメージのことです。例えば、その人自身があたかも実際にピッチングしているかのように、身体を動かす感覚をイメージするということです。

■三人称的イメージとは

三人称的イメージ(visual motor imagery:視覚的運動イメージ)とは、他者の視点から運動を観察しているようなイメージのことです。例えば、ピッチングしている場面を観察しているようなイメージのことです。

一人称イメージと三人称イメージの特徴と効果の違い

一人称的イメージは、自分自身の運動による筋感覚を伴うイメージです。一方、三人称的イメージは、自分自身あるいは他者の動きのイメージと考えられます。どちらが優れているというわけではないようですが、それぞれの傾向や特徴はあるようです。

運動企図と一人称イメージの脳活動の類似性

実際に運動を行っている時と、運動イメージ中(一人称的イメージ)の脳活動は、共通する部分は多いものの、特に運動を企画している時(今まさに運動を行おうとしている時)の脳活動が運動イメージ中の脳活動とより類似している(Hanakawa T et al, 2008)。

一人称イメージと三人称イメージの使い分け?

■三人称的イメージ(視覚的イメージ)は、フォームを強調するような課題には優れているが、運動のタイミングや細かな調整を重視するような課題では、一人称的イメージ(筋感覚的運動イメージ)が優れている(Féry YA, 2003)。

一人称イメージと三人称イメージの年齢による想起能力

■三人称的イメージを想起する能力は、年齢による差は小さいものの、一人称的イメージを想起する能力は、高齢者では劣る(Mulder T et al, 2007)。

一人称イメージと三人称イメージの脳活動の共通点と相違点

■一人称的イメージと三人称的イメージ中の脳活動は、共通して活性化した部位と、異なる部位がある(Guillot A et al, 2009 Iseki K et al, 2008)。

運動イメージに影響を与える要因とその相互作用

Holmes PS et al, 2001より引用

運動イメージとPETTLEP

Holmesらは、より機能的な運動イメージを生成するための要素として、次の7つの要素(PETTLEP)を挙げています。

【PETTLEP】

「physical(身体)」

「environment(環境)」

「task(課題)」

「timing(タイミング)」

「learning(学習)」

「emotion(情動)」

「perspective(志向性)」

詳細についてはまたの機会に触れるつもりですが、少なくとも「イメトレする」「運動をイメージする」といった抽象的なものだけでは、実際の運動パフォーマンスには結びつかない可能性が高いと言えます。

運動観察とは

運動観察とはその名の通り、他者の運動を観察することです。他者の運動を観察することによって、運動パフォーマンスの改善や、運動機能の改善が認められることが様々な研究によって示されています。

例えば慢性期の脳卒中による上肢運動機能が、運動観察によって機能改善がみられたという研究があります(Eltelt D et al, 2007)。ミラーニューロンシステムの活性化がみられたことから、ミラーニューロンシステムの賦活が上肢機能改善に寄与したと考えられます(参考記事:「ミラーニューロン」とは?)。

運動イメージと運動観察の共通点と相違点

トップダウンとボトムアップ

運動イメージは、記憶に基づく処理つまりトップダウンのプロセスであることに対し、運動観察は、他者の運動を観察するという知覚に基づく処理つまりボトムアップのプロセスであると言えます。

しかし実際には、明確に分けることは困難であり、次項以降でも触れますが運動イメージと運動観察の認知プロセスは共通している部分も多く、組み合わせる、補完し合うことでより熟練したパフォーマンスの獲得に有効である可能性が示唆されています(Holmes P et al, 2008)。

運動イメージと運動観察の使い分け?

また、新しい複雑な協調的な課題に関しては(学習の初期段階)、運動イメージよりも運動観察の方が有効であるとする研究もあります(Gonzalez-Rosa JJ et al, 2015)。運動観察は運動イメージと比較して心的な負荷が小さいことから、学習段階や対象者によって使い分けることも考えられます。

運動実行、運動イメージ、運動観察時の脳活動

Jeannerod M, 2001より引用

研究によってばらつきは見られるものの、運動実行時と運動イメージ時では、等価的な脳活動がみられることが示されています。

運動イメージと運動観察の組み合わせ

運動イメージと運動観察の共通点と両者の統合

Vogtらによれば、長年、運動イメージと運動観察の研究がなされてきたものの、両者はそれぞれ別々に扱われてきました。基礎となる神経認知プロセスは共通部分も多く、また両者は高度に統合されているものであるとしています。

Vogt S et al, 2013より引用

運動イメージと運動観察の組み合わせによる効果

Mouthonらは、バランス課題において、「運動イメージ+運動観察」「運動イメージのみ」「運動観察のみ」の3群では、「運動イメージ+運動観察」の組み合わせ群において、有意な皮質脊髄路の興奮性を示しました(Mouthon A et al, 2015)。

運動イメージと運動観察を単独で行うよりも、組み合わせることで、運動イメージ単独よりもハムストリングスの遠心性筋力の向上がみられたといった研究もあります(Scott M et al, 2017)。

まとめ

「イメトレしよう」「イメトレなんて意味ない」といったことは、例えば部活をしている学生の間でも聞かれるセリフです。実際には目的と状況に応じて適切な環境設定の下、適切な課題と難易度の設定次第では、パフォーマンスを向上し得る手段となるかも知れません。

もちろん今回の内容のみで、何か具体的な介入方法を提案出来るかと言えば、そうではありませんが、様々な知見を参考に臨床で活用、応用出来ることはあると思います。

【参考文献】

森岡周 他:イメージの科学 リハビリテーションへの応用に向けて, 三輪書店, 2012.

Decety J et al:The neurophysiological basis of motor imagery. Behav Brain Res. 77:45-52, 1996.

Eltelt D et al:Action observation has a positive impact on rehabilitation of motor deficits after stroke. Neuroimage.36 Suppl 2:T164-173, 2007.

Féry YA:Differentiating visual and kinesthetic imagery in mental practice. Can J Exp Psychol. 57:1-10, 2003.

Gonzalez-Rosa JJ et al:Action observation and motor imagery in performance of complex movements: evidence from EEG and kinematics analysis. Behav Brain Res.281:290-300, 2015.

Guillot A et al:Brain activity during visual versus kinesthetic imagery: an fMRI study. Hum Brain Mapp.30:2157-2172, 2009.

Hanakawa T et al:Motor planning, imagery, and execution in the distributed motor network: a time-course study with functional MRI. Cereb Cortex.18:2775-2788, 2008.

Holmes P et al:The PETTLEP approach to motor imagery : a functional equivalence model for sports psychologist. J App Sport Psychol. 13:60-83, 2001.

Holmes P et al:A neuroscientific review of imagery and observation use in sport. J Mot Behav. 40(5):433-45, 2008.

Iseki K et al:Neural mechanisms involved in mental imagery and observation of gait. Neuroimage.41:1021-1031, 2008.

Jeannerod M:Neural simulation of action: a unifying mechanism for motor cognition. Neuroimage.14:103-109, 2001.

Mouthon A et al:Task-dependent changes of corticospinal excitability during observation and motor imagery of balance tasks. Neuroscience.303:535-43, 2015.

Mulder T et al:Motor imagery: the relation between age and imagery capacity. Hum Mov Sci.26:203-211, 2007.

Mulder T et al:The role of motor imagery in learning a totally novel movement. Exp Brain Res. 154:211-217, 2004.

Rawlings EI et al:The facilitating effects of mental rehearsal in the acquisition of rotary pursuit tracking. Phychon Sci 26:71-73, 1972.

Schuster C et al:Best practice for motor imagery: a systematic literature review on motor imagery training elements in five different disciplines. BMC Med. 9:75, 2011.

Scott M et al:Motor imagery during action observation increases eccentric hamstring force: an acute non-physical intervention. Disabil Rehabil. 1-9, 2017.

Vogt S et al:Multiple roles of motor imagery during action observation. Front Hum Neurosci. 7:807, 2013.

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