(リ)コンディショニングメモ

主にトレーニング、理学療法、リハビリテーションに関することについて。理学療法士が書いています。

考え方

#73 ストレッチするから柔軟性が向上しない?

2017/09/05

運動前のスタティックストレッチは筋出力を低下させるなど、ウォームアップには適していない、といった話題が以前からあります。こういった話に限らずですが、目的があっての手段ですし、その手段をどのように行うのかという具体的な部分が重要になります。

スタティックストレッチにしても、どのようなストレッチをどれくらいの強度や時間行うのか、主となる運動のどれくらい前に行うのかなど、様々な変数があるはずです。

しかし、今回はそういった話題ではなく、そもそもストレッチって何の為に行うのか、どのように行うのか、本当にそれが必要なケースなのか、そういったことについて考えてみたいと思います。

体前屈はハムストリングスのストレッチ?

よくあるストレッチの型として、立位もしくは長坐位での体前屈があります。もちろん同じ名称であっても、バリエーションはたくさんあることは言うまでもありません。

例えば、体前屈のような型のストレッチを、「ハムストリングスのストレッチ」と分類することがあります。確かに、このようなストレッチ(運動)では、ハムストリングス(付近)の伸張感を感じる人もいます。もちろん別の部位に感じる人もいます。同じ人でも部位が変わることもあります。

このように、ハムストリングの伸張感を感じることで、「ハムストリングのストレッチ=ハムストリングスの柔軟性が向上する」といった思考になるかも知れません。

「ハムストリングスの柔軟性が向上する=体前屈の可動域が拡大する」ということで、「体前屈の可動域を改善する為にはハムストリングスのストレッチが有効」という解釈もあると思います。

しかし、そもそも、「何故、体前屈の可動域を拡大する必要があるのか」という目的があります(やりたいからやるというケースもあるでしょうけど)。体前屈そのものはあくまでハムストリングスの柔軟性を向上させる為であって、「ハムストリングスの柔軟性が向上することで、他の動作や姿勢の改善に繋がると考えている」というケースもあるかも知れません。

伸張感は効果的である証拠?

さて、ここからが本題ですが、「わざわざハムストリングスの伸張感を求めてストレッチを行う必要があるのか」という視点もあります。

「ハムストリングスの伸張感がある=ストレッチされている=柔軟性が向上する」という思考自体が必ずしもおかしいとは思いませんが、違和感を感じるケースもあります。

セミナーなどではありがちの、「簡単に体前屈の可動域が拡大する」といったパフォーマンスがあります。そのようなパフォーマンスを批判する人もいますが、視点としては重要だと思います。

「体前屈はハムストリングスが伸張される」と思い込んで行えば、ハムストリングスの伸張感に注意を向けることによって、ハムストリングスの伸張感を知覚しやすくなる可能性があります。

「ハムストリングスの伸張感はストレッチが上手くされている証拠であり、その伸張感は可動域改善に繋がる」と考えていれば、伸張感はポジティブな要素ですから、進んで伸張感を求める人もいるかも知れません。しかし、そうすることで、わざわざハムストリングスによって、体前屈に対してブレーキをかけるということにもなるかも知れません。

しゃがむのはスムーズに出来るのに、スクワットとなるとたちまち、ぎこちなくなる人がいるのと同じように、立位体前屈と変わらない動作で床の物を拾うのと、立位体前屈を行うのでは、可動域に違いが生まれるということは、臨床でも見られる現象です。

「ハムストリングスの伸張感を感じる体前屈」という運動を経験するほど、「ハムストリングスの伸張感を感じる体前屈」を上手く出来るようになる可能性があります。それは、内部モデルが関係するのかも知れませんし、注意を向けることによって知覚の程度が増強するということかも知れません。

注意と運動の変化

例えば、鼠径部に添えた手を挟み込むように立位体前屈を行えば、可動域が拡大する人もいると思います。そういう人は、もともとの動作が股関節屈曲の運動が小さかったり、ハムストリングスの伸張感を知覚するように注意を向けているといったケースが考えられます。

つまり、同じような運動を行う際でも、注意の対象や配分を変えることで、運動も変化することがあるということです。前回の記事で取り上げた、「運動イメージ」(#72 「運動イメージ」について」)も影響を与える可能性があります。例えば、体前屈で柔軟性を評価しているとすると、そういった影響によって結果が違ってくる可能性も考慮する必要があると思います。

ハムストリングスの伸張感が強く、成績が何かしらの基準値を下回っているというケースがあるとすれば、「ハムストリングスの柔軟性が不足しているので、しっかりストレッチしなさい」という指導をするかも知れません。

しかし、注意の対象や配分を変えることで、成績が何かしらの基準値と同等もしくはそれ以上になるとすれば、「ハムストリングスの柔軟性が不足している」とは言わないかも知れません。

このように、同じ人が行う同じような運動でも、結果に違いが生まれることを考えると、前者のように「ハムストリングスの柔軟性が不足しているので、しっかりストレッチしなさい」という指導は、果たして適切なのかという話にもなります。

スタティックストレッチングが不要という話ではない

もちろん、ハムストリングスのスタティックストレッチは必要ないという話をしているわけではありません。仮に筋が短縮していて、それを改善した方が良い理由があるのであれば、選択肢として挙がることは不自然ではないと思います。スタティックストレッチングを、対象となる筋を知覚する手段として活用するケースもあるかも知れません。

様々な手段があり、目的や状況に応じて、よりベターなものを選択するということになると思います。組み合わせといったことも当然考えられます。筋の短縮の問題なのか、伸張性の低下の問題なのか、そういったことも考える必要があるかも知れません。

まとめ

注意の対象や配分、運動イメージ、オノマトペ、比喩の利用などによって、パフォーマンスは変化する可能性があります。単純に、「体前屈の成績が悪いからストレッチする」という発想では、見落とすことも多く、また無駄な労力と時間を費やすことにも繋がるかも知れません。

また、「ストレッチ」という名称に捕らわれて伸張感を求めることで、それがパフォーマンスにネガティブな影響を与える可能性もあります。

いわゆるストレッチにしても様々な手段は、それを行う目的あるわけですから、「◯◯筋が伸びてる感じがする」ということ自体が、「効果的なストレッチ」とは必ずしも言えません。

目的を達成するための手段であって、「◯◯筋が伸びてる感じがする」ということが、目的を達成する上で必要なことなのかを考えてみてもよいのではと思います。

注意の対象や配分を変えることで、可動域が拡大したとしても、それ以上の可動域が必要なケースだとすれば、スタティックストレッチングも選択肢に挙げられると思います。

実際は、伸張感を求めながら行うストレッチを続けていても、可動域は拡大することもあるはずです。ただ、伸張感を求めない方法で行うことで、スタート時点が違うこともあると思います。

潜在能力よりも明らかに低いところで、労力と時間を費やすのではなく、効率的・効果的により高いパフォーマンスを目指すのであれば、現状の潜在能力に近いレベルに引き上げた上で、そこからさらに適切な方法を実施することが必要なことも多いと考えています。

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