(リ)コンディショニングメモ

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神経科学 運動学習

褒めることが運動スキルの改善に影響を与える?

2018/08/23

褒めることが大事?

褒めることの効果が話題に

数年前に、いわゆるリハビリにおける褒めることの効果について、テレビでも紹介されていました。それが話題となって、「褒めることが大事だ」「えっ、普段から褒めてないの?」といった議論もみかけました。

褒めるとは?

「褒める」という言葉も人によって印象が違うかも知れません。褒めるという言葉から見下していることを想起することもあると思いますから、例えば対象者が年配であると失礼にあたるのではと感じる人もいると思います。

「褒める」の英語は「praise」であり、それをまた日本語にすると、「褒める」以外にも「称賛」「賞賛」「賛美」などがあり、「賛美」は「神を賛美する」というように使われることもありますから、必ずしも見下しているというわけではないと言えます。

もちろん、日本語のニュアンスと英語のニュアンスでは違うでしょうから、こういった作業は言葉遊びに過ぎませんが、大事なのは実際にどのような言葉を選ぶのかということだと思います。

Sugawaraらの研究

48人の右利きの参加者に対して、左手による指のタッピング課題を与えました。この課題はキーボードで4つの数字を30秒間で、決められた順序で速く正確に押す課題です。

課題の数字の順序は、AとBという2種類を設定し、参加者の半分はAの順序(4-1-3-2-4)、もう半分の参加者はBの順序(2-3-1-4-2)でそれぞれ行いました。

1日目の課題練習後、①自身のパフォーマンスについて称賛しているとする動画を観るグループ、②他者のパフォーマンスについて称賛しているとする動画を観るグループ、③動画を観ず称賛されないグループ、の3つのグループに分けました。①と②の動画は同じでした。

24時間後、再テストを実施しました。再テストは、1日目と同じ順序で行いました。この再テストは事前に知らされていませんでした。つまり、練習の可能性を極力排除しました。

Sugawara SK et al, 2012より引用

Sugawara SK et al, 2012より引用

Sugawara SK et al, 2012より引用

【結果】

■再テストのパフォーマンスは、①自身のパフォーマンスについて称賛しているとする動画を観るグループが、他のグループと比較して改善率が有意に高かった。

■1日目と違う課題(A→B、B→A)と、ランダムな配列の課題では、各グループに有意な差は見られなかった。

つまり、称賛による効果は、練習した課題に特異的であったということです。

研究のポイント

この研究のポイントの1つは、称賛によるオフラインの効果です。称賛されることによって、モチベーションが上がって、より練習するという文脈とはまた別になります。

また、練習中ではなく練習後の称賛によって、再テストまで練習することなしに、24時間後のパフォーマンスが他のグループより改善したということです。

報酬は多様である

金銭的報酬と社会的報酬による脳活動

称賛は社会的報酬です。金銭的報酬と社会的報酬では、どちらも共通した脳領域の活性化がみられたという研究があります(Izuma K et al, 2008)。

Izuma K et al, 2008より引用

今回の研究では脳の活動は確認されていませんが、報酬に関する線条体をはじめとした脳領域の活性化が起こった可能性はあります。

報酬は3つに分けて考えられる

【報酬は多様である】

多様な「報酬」も生理的報酬、学習獲得的報酬、内発的報酬の3つに分けて考えることができる。

苧阪直行 編:報酬を期待する脳, 60. 新曜社, 2014.

社会的報酬はこの中で言えば、内発的報酬に含まれます。内発的報酬は他には、好意的評価、芸術を楽しむ、好奇心の充足などがあります。ですから、称賛というのは、数ある報酬の1つということになります。

「褒める」に戻って

「褒める」という言葉の捉え方はそれぞれあるにしろ、結局はその内容が報酬になり得るかどうかということがポイントだと思います。「お~凄いですね~!」という言葉で動機づけられる人もいれば、そうでない人もいると思いますし、場面によることもあると言えます。

臨床で考えると、その時点で目標とする課題があるとして、目標と現状の差異が小さくなったこと、もしくは課題をクリアしたことについて、フィードバックを与える言語は「褒める」言葉かも知れませんし、シンプルに内容だけをフィードバックする言葉かも知れません。

いずれにしろ、そのフィードバックが学習を促すこと、動機づけに繋がるのであれば良いと言えますし、「褒める」という言葉自体に捕らわれる必要はないと個人的には考えています。

まとめ

今回紹介した研究からも、言葉の持つ影響力を再認識させられます。もちろん、関係性といった部分もありますから、「とにかく褒めたら良いんやな!」というのは短絡的だとは思います。言葉の選択は臨床でも、それ以外でも配慮すべき要素だと考えています。

今回の研究から少し飛躍して考えてみると、例えば、自分の担当患者さんではなくても、患者さんの取り組みを観ていて、「めっちゃ上手に出来るようになってますね!」と一言声をかけるだけでも、効果があるかも知れません。

そういった声かけは、今回のような研究を知らなくても自然に出来る人もいますが、対象者の目標を高く設定しているため、「まだまだ努力が必要だ」という潜在意識が、「良いですね!」という言動を阻む可能性もあるように思います。

「理学療法士は」というつもりはありませんが、どうしても標準的な身体能力との差異に目がいきやすい、つまりネガティブな要素を抽出することは得意ですが、ポジティブな要素を抽出することはそれに比べて得意とは言えないケースもあると思います。

ポジティブな要素に目を向けることは、臨床でもそれ以外においても、重要なことだと考えています。

【参考文献】

苧阪直行 編:報酬を期待する脳. 新曜社, 2014.

Izuma K et al:Processing of social and monetary rewards in the human striatum. Neuron 58:284-294, 2008.

Sugawara SK et al:Social Rewards Enhance Offline Improvements in Motor Skill. PLoS One 7:e48174, 2012.

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