(リ)コンディショニングメモ

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神経科学 運動制御 歩行

「CPG」とは?

2018/08/22

歩行の随意的側面と自動的側面

いわゆる健常者であれば、自身の歩行に常に注意を向けることなく、歩くことが出来ます。歩行は自動性の高い運動ですが、完全にステレオタイプ的な運動ではありません。

地面の状態つまり形状や傾斜の変化、障害物の有無、他の歩行者、自転車や自動車の動きなど、環境の変化に対して適切な運動の調整が必要になります。また時に同時に、水の入ったコップを運ぶ、歩きスマホ(危険)など、いわゆるdual task下であっても、安定した歩行を担保する必要があります。

歩行が完全にステレオタイプ的な運動であれば、こういった調整は困難であると考えられます。歩行には随意的な側面と自動的な側面があります。CPG(central pattern generator)は自動的な側面を支える神経機構のひとつです。

CPG(中枢パターン発生器)とは

■Dimitrijevicらの実験

CPG(central pattern generator;中枢パターン発生器)は、脊髄介在ニューロン群で構成される神経回路網のことです。Dimitrijevicらの実験などによって、その存在と機能が示唆されていますが、まだ不明なことも多いようです。

Dimitrijevic MR et al, 1998. より引用

Dimitrijevicらは、第5胸髄損傷者を対象に損傷部以下の髄節に対して脊髄硬膜外刺激を行いました。その結果、下肢の周期的な屈筋と伸筋の交互性の活動が見られました。

この実験のポイントは、刺激は一定の強度であったにも関わらず、このような周期的な活動が見られたことです。これによって、脊髄内に歩行運動を誘発する発生器が存在する根拠が示されました。

歩行の制御には感覚情報が重要

■股関節の活動

歩行の立脚期後半に股関節が伸展される際、筋紡錘からの入力は、遊脚期への移行に向けた股関節屈筋群の活動を促しました(Grillner S et al, 1978)。

脊髄損傷者を対象にBWSTT(免荷式トレッドミル歩行トレーニング)を実施し、立脚期後半の股関節伸展が股関節屈曲を促しました(Dobkin BH et al, 1995)。

■下肢への荷重

脊髄損傷者の下肢の筋腱の伸張よりも、下肢への荷重がEMG活動に密接に関連していることが示されました(Harkema SJ, 1997)。

脊髄損傷者を対象に、駆動式歩行装具を用いた実験では、部分荷重でみられた下肢の筋活動は、完全免荷の条件ではみられませんでした(Dietz V et al, 2002)。

Dietz V et al, 2002より引用

■下肢の交互運動~Kawashimaらの実験より~

こういった様々な実験がありますが、歩行の特徴である下肢の交互運動を十分に考慮している研究は殆どありませんでした。そこで、Kawashimaらは、脊髄完全損傷者を対象に、下肢の交互運動、下肢の片側運動(右下肢のみ)、下肢の両側同期運動の3つに分けて、誘発された筋活動が、実際に歩行運動様の筋活動を生成および調整しているかについて調べました。

 

Kawashima N et al, 2005より引用

Kawashima N et al, 2005より引用

Kawashima N et al, 2005より引用

この実験により、下肢の交互運動は、片側運動や両側同期運動よりも筋活動が有意に大きいことが示されました。これらの実験を踏まえると、CPGの活動には、股関節の運動、下肢への荷重といった感覚情報、歩行運動の特徴である下肢の交互運動が重要であると考えられます。

【備考】

CPGに関するものではありませんが、Whittingtonらは、歩行時の股関節、膝関節、足関節の受動的弾性機構について調べました。例えば、股関節の受動的弾性(股関節屈筋群の伸張による)が、股関節屈曲時期の関節パワーの約58%を担っています。この観点から考えても歩行時の股関節伸展は、効率的な歩行において重要なポイントと言えます。

歩行を誘発する脊髄神経回路網

高草木, 2007より引用

(※E…伸筋運動支配細胞 F…屈筋運動支配細胞)

CPGからの信号は、「歩行パターン」を生成する介在細胞群に伝達される。歩行パターンを生成する介在細胞群の信号は、運動細胞に伝達される。骨格筋の長さや張力を受容して脊髄に伝達するⅠ群(Ⅰa、Ⅰb)線維(筋長や筋張力の情報を伝える)から入力を受ける介在細胞群(Ⅰa- およびⅠb- 介在細胞と呼ばれる)やレンショウ細胞が歩行パターンの生成に寄与する。これらの介在細胞群の活動が伸筋および屈筋を支配する運動細胞に伝達されて、歩行運動が誘発される。

高草木薫 他:身体適応-歩行運動の神経機構とシステムモデル. オーム社:46, 2010.

■歩行はCPG単独の働きではない

このようにCPG単独で歩行運動を誘発しているわけではなく、中枢神経系の階層性、感覚情報が重要であることが明らかになってきています。

上肢と下肢の繋がり

■頸髄と腰髄にあるCPG

人は二足動物であり、下肢によって歩行運動が行われます。一方で、四足動物は前肢と後肢によって歩行運動が行われます。四足動物では腰膨大部付近と頸膨大部付近にそれぞれCPGが存在し、それぞれ後肢と前肢を支配しており、それらが長い軸索で結合していることがわかっています(Cazalets JR et al, 2000)。

■上肢の運動が下肢の筋活動に影響を与える

Kawashimaらの実験では、頸髄不全損傷者の下肢のステッピング運動時に、上肢の運動を行うことで下肢の筋活動が増加しました。胸髄完全損傷者では、上肢の運動は下肢の筋活動に影響を与えることはありませんでした(Kawashima N et al, 2008)。これは上肢と下肢を結ぶ脊髄の連続性が断たれているためと考えられます。

まとめ

歩行は随意的な側面と自動的な側面を有しています。環境への適応、協調的な運動制御を可能にするためには、高位中枢の過負荷を回避する必要があります。そのためには、CPGといった歩行の自動的な側面を支える神経機構の役割が重要になります。

例えば、脊髄損傷や脳卒中といった、随意性や協調性に障害を来しているようなケースは多くあります。CPGを始めとした神経機構の活動を促すポイントを知ることは、歩行リハビリテーションを実施する上で重要だと言えます。

BWSTT(免荷式トレッドミル歩行トレーニング)がCPGの活動を活性化するという研究もあり、歩行リハビリテーションにおいて活用されています。

また、受動歩行やアシスト歩行を可能とした歩行ロボットなど、高い性能を持ったツールが開発されてきており、同じように活用されているケースは増えてきています。

より質の高い歩行リハビリテーションを実施するために、こういったツールを適切に活用することが求められると思います。ツールの活用の有無に関わらずですが、このような知見を如何にして臨床で活用するかということが重要だと考えています。

【参考文献】

・河島則天:歩行運動における脊髄神経回路の役割. 国リハ研紀. 30:9-14, 2009.

・高草木薫 他:身体適応-歩行運動の神経機構とシステムモデル. オーム社

・高草木薫:歩行の神経機構Review. Brain Med 19:307-315, 2007.

・Calancie B et al:Involuntary stepping after chronic spinal cord injury. Evidence for a central rhythm generator for locomotion in man. Brain. 117 (Pt 5):1143-59, 1994.

・Cazalets JR et al:Coupling between lumbar and sacral motor networks in the neonatal rat spinal cord. Eur J Neurosci.12(8):2993-3002, 2000.

・Dietz V:Do human bipeds use quadrupedal coordination? Trends Neurosci. 25(9):462-467, 2002.

・Dietz V et al:Locomotor activity in spinal man. Lancet.344(8932):1260-1263, 1994.

・Dietz V et al:Locomotor activity in spinal man: significance of afferent input from joint and load receptors. Brain. 125(Pt 12):2626-2634, 2002.

・Dimitrijevic MR et al:Evidence for a spinal central pattern generator in humans. Ann N Y Acad Sci.860:360-376, 1998.

・Dobkin BH et al:Modulation of locomotor-like EMG activity in subjects with complete and incomplete spinal cord injury. J Neurol Rehabil. 9(4):183-190, 1995.

・Grillner S et al:On the initiation of the swing phase of locomotion in chronic spinal cats. Brain Res.146(2):269-277, 1978.

・Harkema SJ et al:Human lumbosacral spinal cord interprets loading during stepping. J Neurophysiol. 77(2):797-811, 1997.

・Kawashima N et al:Alternate leg movement amplifies locomotor-like muscle activity in spinal cord injured persons. J Neurophysiol. 93(2):777-785, 2005.

・Kawashima N et al:Shaping appropriate locomotive motor output through interlimb neural pathway within spinal cord in humans. J Neurophysiol. 99(6):2946-2955, 2008.

・Whittington B et al:The contribution of passive-elastic mechanisms to lower extremity joint kinetics during human walking. Gait Posture. 27(4)628-634, 2008. 

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